福島真人:我々も無宗教といいつつ、年中行事には結構従ってますが、特に伝統的社会では、宗教的慣習というのは単にお祈りといった行為に止まらず、誕生から結婚式のような祝い事や葬儀、農業や漁業における儀式等々、様々な社会面、人生面での節目を構成する儀礼という形で、社会の中に埋め込まれています。つまり社会的に重要な概念(生、死、婚姻、成人、その他集団の成員権)はこうした儀礼によって定義されるわけです。また儀礼というのは人類学でいうorthopraxis、つまりそれを正しく手続きを踏んで執行することが重要ですので、その意味についていちいち問いあらためたりしない。そのため、それを執行できる人口が維持できれば、たいてい持続するものです。実際、こうした儀礼の歴史人類学的研究によると、近代化の過程をへても、多くは持続し、それが消滅する場合は、対抗する宗教実践が流入してきてそれに乗っ取られたり、あるいは高齢化でその儀礼を共同体で維持できなくなって泣く泣くやめるといったケースが主で、まさに長期的に持続する傾向が顕著です。