抜群によい質問です。簡潔でかつ奥が深い。身近な現象と量子論の深いメカニズムをつなげる本質的な問いです。何が言いたいかというと、難しくて私にはちゃんと説明できません。どうしましょう。でもこれでは答えになっていませんね。少し考えてみましょう。
棒磁石を2つに折って分けるととアラ不思議、折ったところにN極とS極が勝手に現れて、2つの磁石ができあがる。だったらもっと折ってみたらどうだろう。4つ、8つ、...。どこまで小さく折っても磁石のままなんだろうか。もっともな疑問ですよね。分子レベルになったらどうだろう。それは場合によるでしょう。でも確実に言えるのは、もっと分解して原子核と電子に分けてみたときです。そう。1つの電子は磁石なのです。
電子は自転しています(スピンといいます)。電荷をもつものが回転すると磁石になります。電子は小さな素粒子ですが、一つの立派な磁石です。
問題は、原子や分子など、大きくしていったときです。何が起こるでしょうか。まずは一つの原子を考えてみましょう。この原子が2個の電子をもっている(ヘリウムです)と、たいてい2つの電子のスピンが逆向きになって磁石の性質は相殺してしまいます。2つの棒磁石を近づけると逆向きにくっつきますよね。あれと同じで、電子も磁石である以上、逆向きにくっつきたがるのです。もっと大きな原子でも、偶数個の電子をもった原子だとやはり逆向きスピンの電子が半数ずつになって、磁石ではなくなってしまいます。だから奇数個の電子をもつ原子でないとだめそうですね。
では奇数個の電子をもつ原子を集めることにしましょうか。だけど、ここでも同じことが起こりそうです。せっかく磁石の性質をもった原子でも、2つが近づくと逆向きにくっついてしまって全体として磁石の性質は失われてしまいます。磁石なんてできないんです。私たちの身の回りを見ても、磁石なんてほとんどありませんよね。
じゃあ、あの棒磁石はどうやってできているのか。それが問題です。やっかいな問題です。一個ずつの原子をただ並べるのではダメで、原子間で電子をやりとりできるようにしておく必要があります。動き回る電子が、他の電子のスピンと逆向きになって磁石を相殺しないような、むしろ同じ向きになるような工夫ができればいいわけです。エネルギーを決めるのがスピンの向きだけでなく、電子の動きも加わればそういうことも可能かもしれません。でも、これは結構ややこしい多体問題になります。
やっぱりちゃんとは説明できませんでした。降参です。