英文法用語に関する質問をいただきました。5文型の枠組みで第5文型の SVOC を例にとると、S(ubject), O(bject), C(omplement) の3要素には、当該の構文パターンにおける統語意味論的な役割にちなんだ名前が付けられていますが、V(erb) 要素については、統語形態論的な区分である品詞にもとづく名前が付けられています。要素の呼称に一貫性がないのではないか、という疑問かと思います。確かに一貫性はありませんね。以下、統語意味論的な役割にちなんだ名付けと分析を、仮に「役割分析」と呼んでおきます。また、統語形態論的な区分である品詞にもとづく名付けと分析を、仮に「品詞分析」と呼んでおきます。
さて、質問者が指摘されているとおり、「主述の関係」というように、文を2つの構成要素に分割する分析がなされてきた伝統が一方であります(これを仮に「主述分析」と呼んでおきます)。主述分析によると、主部 (Subject) に対置されるものとして述部 (Predicate) が切り出されます。主部や述部はそれ自体の内部構造をもち、各々には中心をなす「主要部」があります。主部の主要部は「主語」と呼ばれ、品詞でいえば名詞や代名詞で表わされるのが典型です。述部の主要部は「述語」と呼ばれ、品詞でいえば必ず動詞となります。
一貫して主述分析を採用する場合、従来の5文型がカバーする構文パターンはすべて「主部 (Subject) + 述部 (Predicate)」つまり SP という1つのパターンに集約されてしまいます。1種類しかないところに「文型」を設定するのは実用上無意味なので、これは採用されない行き方だろうと思います。
ぜひとも複数の文型を設定したくなるのは、英語の述部には様々なパターンがあることが認識されているからでしょう。従来の5文型では、述部が (1) V だけのもの、(2) V + C, (3) V + O, (4) V + O + O, (5) V + O + C, と5パターンが設定されているわけです。いずれのパターンでも、述部の主要部、すなわち述語には、必ず動詞がはまります。ここから「述語動詞」 (Predicate verb) という言い方が生まれます。
「述語動詞」 (Predicate verb) の頭文字をとって P と略記することは可能ですので、その略記を採用すれば、従来の5文型は SP, SPC, SPO, SPOO, SPOC となり、要素の呼称にそれなりの一貫性を持たせることができそうです。ただし、この P は常に動詞 (Verb) でもあるので、V と表記しても事実上混乱は生じません。この事情さえ分かっていれば、略記は P でも V でも十分に用を足します。品詞分析を廃して役割分析に徹するという一貫性を重視したいのであれば P を採用するのがよいと思いますが、1つ懸念があるとすれば P は Predicate verb のみならず Predicate の頭文字ともなるので、混乱のもとになるかもしれないという点でしょうか。
V ではなく P の略記を用いることで、要素の呼称にそれなりの一貫性を持たせることができそうだと述べました。「それなりの」というのは、例えば従来の第5文型を SPOC と呼び変えたとして、これが本当に役割分析に徹しているかには、まだ疑問が残るからです。主語 (Subject) と述語動詞 (Predicate verb) を設定している以上(さらに、すべての構文パターンに主語と述語動詞は必ず現われることを認めるならば)、そこには主述分析が前提とされていると考えざるを得ないのです。つまり、SPOC のような呼び方ですら、主述分析と役割分析のミックスだということです。
まず文を大きく主部と述部の2つの部分に分ける(主述分析)。次に、述部に関してはパターンがいくつかあり得るので、配下の各要素に役割を割り当てることにより整理する(役割分析)。単一の分析で通すことにこだわるよりも、2つの分析の合わせ技によって学習上・教育上手に負えそうな5種類程度の文型を設定するほうが実用に資するのではないかと考えます。