大学の数学を学ぶときに引っかかることや引っかかる場所は人によって違うと思いますが、私がもっとも重要だと思うことを簡単にですが書きたいと思います。なお「高校までの数学」と「大学の数学」と便宜上書きますが、あくまで便宜的な表現と思ってください。

高校までの数学は、数学的な対象物というものはすでにあるものとして、その性質を学ぶことが多いと思います。それに対して大学の数学では、数学的な対象物をすでにあるものとして扱うのではなく、これこれの条件を満たすものが「それ」であるとして定義するところから始めます。

これは些細な違いではなくてものすごく大きな違いになります。式を読むときの考え方が真逆になるからです。

高校までの数学は、数学的対象物を表す式が出てきたときに、心の中にすでに存在し、思い浮かべることができる数学的対象物と照らし合わせ「ふむふむ、確かにこの式は成り立つぞ」と思って納得します。それに対して大学の数学では、数学的対象物を表す式が出てきたときに、「なるほど、この式が成り立つものが「それ」なのか。たとえばどんなふうに「それ」を構成できるだろうか。この式が成り立つと仮定するならば、どんな性質をここから導けるだろうか」と考えが進みます。

ここがわかっていないと大混乱を起こす典型は、たとえば「位相」であり「線形空間」です。よく言われる「εδ論法(極限や連続)」もそうです。「群」などの抽象代数学でも同様です。そこに出てくる言葉と式の関係を逆に考えてしまうと混乱します。

群の公理としていくつかの式が提示されたとき、「群」というものをすでに知っていなくてはならなくて、その性質が式で表現されているのだと考えてしまうと、「私は群を知らないから、どうしてこの式が成り立つかわからない」となってしまいます。逆です。この式が成り立つものを群と呼ぶのです。

以上、これが高校までの数学と大学の数学の違いのすべてとはいいませんけれど、少なくとも私にとってはものすごく大きなギャップでしたのでご紹介しました。

私は現在「数学ガール」シリーズという数学読み物を書いていますが、そのシリーズ全体を通じて、上で述べたことが具体的に登場します(群、位相、線形空間、εδ論法……)。機会があったら読んでみてください。

◆数学ガール

https://www.hyuki.com/girl/

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