レターとしてきたので回答するけど、基本的にこの種の問題は「科学的な原因分析が完了していない段階では、語るには時期尚早」なので、私であっても誰であっても、現段階で原因に言及できる人は誰もいないよ。むしろ今の段階で答えを絞っちゃう人の方が信用がおけない、と言った方が良いかもね。このような問題は原因の特定に何年もかかるものであり、やっと明らかになる頃には世間の関心も冷めているものだけど、科学的に証拠を積み上げる作業というのはそれだけ大変なんだよね。

そして何となく勘違いしている人も多いと思うけど、プベルル酸が検出されたというのは今のところ「意図しない混入物質で、化学構造が具体的に特定されたものがあったのでとりあえず報告した」以上の意味はないよ。誰も原因と断定してないからね。まだ分析中で、具体的な化学構造が判明していない物質がまだ複数あることを実際に公表しているよ。

確かに、プベルル酸マウスの実験では死亡例が出ているけど、これは皮膚に注射した場合であり、機能性食品のように食べさせた場合と同列に語ることはできないし、プベルル酸が腎臓を含めた臓器を損傷するという証拠もまだ見つかっていないんだよね。よって、プベルル酸が腎機能障害の原因である可能性はゼロじゃないとはいえ、実際には大外れである可能性も大いにあり、後々の分析で全く別の物質が原因として特定される可能性も全然あるのよね。実際、今日の報道では全ての製品にプベルル酸が出ていたわけではないという感じみたいだよ。だから現段階では「プベルル酸が原因である」と断定的に言うことはできないんだよね。

また、「紅麴製品にカビが混入していた」というのも勘違いで、今のところそのような報告は出ていないよ。あくまでも「プベルル酸はアオカビ属 (Penicillium) に属する複数種の真菌が生合成をする能力を持つ」というのが過去の研究で判明している、という事実が間違って伝わっているだけで、プベルル酸を作ったのが誰なのかは判明していないよ。アオカビ属以外の真菌・細菌・ウイルスなどが混入していて、それがプベルル酸を作ったのかもしれないし、あるいは原料そのものに最初から含まれていたとか (紅麴以外の生物由来の原料も当然ながらあるわけだし) 、生産ロットの紅麴自体が実はプベルル酸を作る能力を持っていた可能性も今のところはゼロじゃないからね。この辺は当然DNAを分析するなどで特定作業をしているはずだけど、これも時間のかかる話だよ。だから今のところの状況からすれば、カビじゃない生物が原因だと言われたところ何の不思議もないんだよね。 (有り体に言えば、因果関係がはっきりしていない現段階では小林製薬の製品が原因ではなかった可能性がゼロの可能性もほんのわずかながらあるけど、とはいえ原因である可能性が高いからこそ、予防的に出荷停止・回収が必要になってくるんだよね)

原因という段階ですらこうなので、不幸な事故だとか防げるミスだとか言うのは更に先の話。今は全く何も言えないよ。もちろん、事故を防ぐ努力をしたところで、全知全能ではない人間が関わる以上、今回のような問題となるケースを完全にゼロにすることは不可能とは言えるけど、だからと言って不幸な事故だからしょうがないとするのではなく、事故が起こる確率を少しでも低くすることが再発防止に求められるよ。だからこそ、今は必死に原因を突き止めているわけだね。

どうしてもこういう問題は、問題が起きてすぐの段階は世間の関心を引いてああじゃないかこうじゃないかというわけだけど、短絡的に結論を出すと、必要のない措置を行ったり、時には間違ったことをしてしまい、不要な対策コストがかかったり、結局事故が再発したりと、後々の不利益になってしまうことがあるんだよね。だから時間をかけて間違いの少ない結論を出さなきゃいけないし、今のところ確定ではない "容疑者" 段階の製品を出荷停止・回収するというのがせいぜいになっちゃうんだよ。

6mo

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