イナダシュンスケ:これはもう、お二方の主張でほぼ言い尽くされているとは思うので、あとは個人的な好みも交えて少々。 　 麦味噌の汁のダシは、どちらかと言うと鰹節より煮干しの方が合うと思います。僕は普段はダシパックを使うことが多く、そのダシパックはカツオ主体の「高いダシパック」と煮干し主体の「安いダシパック」の２種類を常備しているのですが、麦味噌には安い方です。 そして確かに具沢山にしたいですね。特にキャベツや玉ねぎ、南瓜、じゃがいも、大根など甘みの出る野菜は圧倒的に麦味噌が合うと思います。その時は同時に油揚げも少しずつ入れたいですね。ただし豆腐と小ネギだけ、みたいなシンプルな仕立てもまた良し。とは言えその時も大きめに切った絹どうふをたっぷりと、やはり具沢山なイメージです。 味噌の量はギリギリの少なめで、淡味な方が持ち味が生きると思います。ダシの量に対してどんなに多くても1割、具材も加えた時の塩分濃度0.6%が目安です。煮えばなをいただくのも大事。 　 八丁味噌のダシは節系が良いですね。だから僕は「高い方」のダシパックです。よりストリクトに作る時は、ダシパックではなく鰹節オンリー。八丁味噌はグルタミン酸が豊富なのでダシに昆布の要素は不要、むしろどうかすると邪魔です。時には下品なくらい濃い鰹ダシにしてみるのも良いものです。 邪魔と言えば、麦味噌とは真逆で甘みの出る野菜は向かないと思います。向かないは言い過ぎかもしれませんが、「それはもう別の料理」。そして何を入れるにしても実の量はごく控えめに。代表的なものはナメコでしょうか。僕は三つ葉オンリーが一番好きです。貝割れオンリーも良いものです。豆腐なら5ミリ角の小さいカットのものを少量です。 味噌の量はやはり1割程度が目安ですが、具が少ないので味の濃さは濃いままということになります。時にはそれより更に多く入れ、その塩カドを取るように味醂を隠し味程度にさすと料理屋さんぽくなります。その時はダシも濃いめで、吸い口として山椒を少し。こういう時のために縦長の蓋付き小椀があると最高ですね。 　 僕が子供の頃、八丁味噌の味噌汁はちょっと高級で特別なものとして扱われていました。普段は麦味噌が基本なのですが、ウナギとか牛肉なんかの時は八丁味噌。 確かに献立の組み方として、そういうちょっとリッチなものとの相性は八丁味噌がいいと思います。酸味が脂を切ってくれる、口洗い、箸洗いのイメージです。高級食材でなくとも、メインがボリューミーだと八丁味噌が収まりがいいですね。例えば天ぷらには「絶対に」八丁味噌なのではないでしょうか。 逆にあっさりしたメインの時は麦味噌が生きますね。お刺身と冷や奴、みたいな渋い献立の傍に、甘みのある麦味噌の汁は嬉しいものです。おかずがシンプルな時でも、思いっきり具沢山にしてしまうと、むしろそっちがメイン級になりますし。そんな時はあら汁なんかも良いものです。 　 豚汁に関しては合わせ味噌が良いと思っています。ただし半々だと何故か八丁味噌が圧倒的に勝ってしまうので、あくまで麦味噌主体でそこに混ぜるくらいがおすすめです。豚汁に限らず、普段の味噌汁にも応用可能です。 八丁味噌は味噌汁以外の料理にも使いやすいですね。特に中華においては、トウチと甜麺醤、両方の代用となり、場合によっては本家よりおいしくなったりもします。風呂吹き大根や味噌カツ用に、甘みを加えた味噌ダレを常備しておくのも便利ですね。他にもいろいろ使えます。 麦味噌は麦味噌で、これでなければ、という料理があります。「豚味噌」や「とんこつ」が代表例。特にとんこつはもっとメジャーになってもいいのに、と思います。 　 といったようなご提案を行なった場合、経験上、九州の方にはある程度納得していただけそうな気がします。しかし問題は東海民。 「たーけたこといっとってかんわ。それはぜーんぶ八丁味噌に決まっとるでしょう」 と、大根の味噌汁も具沢山汁も豚汁もあら汁も豚味噌（この場合は「肉味噌」）も、全てを八丁味噌色に染め上げることを主張するのではないでしょうか。 八丁味噌派である質問者さんはもしかしてその東海民なのでしょうか。ならば歩み寄りの主体はおそらく質問者さんの方です。 この質問が逆の立場からのものでなかったことが幸いです。