チーム全体を引きつけて離さない親方。いつまでも変わることがないと思っていた親方(原子核)が突然別人に変わったら弟子(電子)たちはびっくりするでしょうね。しかも親方、パワーアップしている。一体何が起こった? もちろんベータ崩壊です。え? これじゃあ何のことやらさっぱり? そうかもしれません。

炭素14年代測定法というのがあります。空気中の炭素(二酸化炭素として存在する)のなかには通常の質量数12(陽子6+中性子6)のものだけでなく、質量数14のものが存在します。空気中の窒素(陽子7+中性子7)が上空で宇宙線と反応をおこして炭素14(陽子6+中性子8)に変わるんですね。空気中では太古の昔から一定の割合で存在し、それを取り込んだ植物の炭素も同じ割合で炭素14を含みます。ただし、こいつは半減期5000年ほどでベータ崩壊を起こして窒素に戻る。地中に埋まった炭素では炭素14は長い時間をかけて減っていきます。だからその分量を正確に測れば化石の年代を知ることができる。賢いアイデアですよね。いつも感心します。

ベータ崩壊を起こすのは「弱い力」という短距離力で、原子核中の中性子に直接作用して陽子に変え、同時に電子(とニュートリノ)を放出する。この炭素14のもとで原子を構成していた6個の電子にとっては知る由もありません。単に、原子核が突然別のものに変わるだけです。(出ていった電子はエネルギーが大きすぎて原子内にはとどまらず、どっかに行っちゃうでしょう。)窒素は陽子の数が7、炭素よりも一つ多いのでその分、電気力が強くなります(親方パワーアップ)。電子はその分、ぎゅっと中心に引き寄せられる。原子を中性にするには電子が足らないのでどこかから調達する必要があります。周囲の別の原子にちょっかいを出して電子を奪うこともあるかもしれません。でも、それだけと言えばそれだけです。弱い力と電磁気力は別物。シンプルに考えていいんだと思います。

1 year ago

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Past comments by 橋本 省二
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