すでに回答が出ている通り,平均値ではなく中央値を見るべき例として,統計学の教科書や講義でよくあげられるのが「年収の分布」です。たいていの人の年収が数百万円の桁なのに対して,億円や十億円の桁の年収の人もいて,そういう人がわずかしかいなくても平均値には大きく影響するからです。一般に,分布の形が「一方に長く伸びている」,つまり「極端な値の数値がわずかながら入っている」場合は,中央値のほうが,わずかな個数の極端な値には影響されないので好都合です。

 少し違いますがよく似た例として,「平均寿命」と「寿命中位数」という概念があります。現在の各年齢での死亡率がこれからずっと変わらないとするとき,今年0歳の人それぞれの「死ぬまでの年数」を平均したものが平均寿命です。これに対して,今年0歳の人の数が半分に減るまでの年数が寿命中位数です。

 さきほどの「極端な金持ち」とは反対で,子供のうちや若いうちに亡くなってしまう人が多いと,平均寿命はそれに大きく影響されて短くなります。明治時代の日本の平均寿命は40歳代前半でしたが,その頃でもお爺さんお婆さんはいたし,40代で「老人」になったわけでもありません。

 2020年国勢調査にもとづいて厚生労働省が出している「第23回完全生命表」[1]にある資料[2]によると,

平均寿命  2020年 男 81.56 女 87.71
      1955年 男 63.60 女 67.75

寿命中位数 2020年 男 84.91 女 90.55
      1955年 男 69.79 女 74.19

となっています(単位:年)。昔に比べていまのほうが,平均寿命が寿命中位数に近づいています。このことは,子供のうちや若いうちに亡くなる人が,過去65年の間にも減っていることを表しています。同資料にある「生存数の推移」(図3-1,3-2)によると,すでに戦後であった1955年(昭和30年)でも,出生した人10万人のうち,40歳までに10%は亡くなっている計算になっていました。

[1] 厚生労働省「第23回完全生命表」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/23th/index.html

[2]「3 第23回生命表について」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/23th/dl/23th-02.pdf

1 year ago1 month agoUpdate

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