小田部正明 (Masaaki Kotabe):最近、VUCA (volatility, uncertainty, complexity and
ambiguity)という言葉が良く使われるようになりました。1940年代以降、アメリカ主導型の国際経済体制だったのが、確かに世界経済の発展に伴って経済的に、政治的に、宗教的に、また軍事的に世の中の「変動性、不確実性、複雑性、曖昧性」が増してきました。そういう意味で、簡単な世の中で経験や勘で経営が済んだのが、特に1980年代以降アメリカでビジネススクールが発展し、戦略論(戦略理論)などのロジックで企業を運営するのが主流になりました。予測可能な世の中では論理的な戦略論が通用するのですが、VUCAの環境の中では、先が見えず論理だけでは先が見えなくなってきています。そういう意味で、最近はやっているのがビッグデータ分析で、膨大なデータを分析することによって経験や勘、そしてロジック(戦略論)だけでは見えないモノ(前触れのようなもの)を見つける方向に進展しているのは事実です。
とは言っても、経験や勘が大切でなくなった訳ではありません。例えば、Apple社のSteve JobsのリーダーシップでiPod, iPhone
そしてiPadと斬新的な製品が開発されたのも、Jobsの望み(勘)で、使いやすいばかりでなく手に取って美しい製品を作ることを主張したからです。Apple社はかなりローテクな会社で、そのような技術が全くあった訳でなく、Appleで働く技術者たちはJobsを満足させるため世界中から必要な技術・技能をかき集めてくることを強いられました。iPod,
iPhone
そしてiPadはその結果です。つまり戦略論とかビッグデータ分析とか言ったもので斬新的な製品が開発された訳ではなく、Jobs自身の(芸術的な)経験と勘に基づいて創造されたモノです。あくまでも戦略論とかビッグデータ分析とかは経営のための道具であって、ますます経営者の経験とか勘がこれからも大切になることでしょう。