■標準語ではなく「共通語」

 国語科では以前から、教科書も学習指導要領も、標準語でなく「共通語」という用語を統一使用しています。それは戦前、アジア各国や国内少数民族に「標準語」を押し付け、方言を使った児童生徒の首には「方言札」をかけるなど威圧的・懲罰的な指導を繰り広げてきたことへの、深い反省の表明です。

 共通語は、各地の豊かな方言を「仲立ち」するものとして存在し、方言も共通語も日本語にはともに必要不可欠です。それは、各先生のおっしゃるとおりです。

■関西人が関西弁で通すのは「なまっていないから」

 国内各地域の流通や交易を図り、一つの国家を作り上げるために、明治政府は様々な標準規格を整え、全国の標準化を推し進めました(その影の部分は前述のとおり)。学校制度も、国定教科書も、「国語」という一種の人工言語も、その一つです。

 江戸時代、各地方の方言は「お国言葉」と呼ばれていました。一方、参勤交代で諸国大名の家族が住まわされた江戸城付近の武家屋敷一帯・山の手地区では、江戸の武家言葉と京言葉が混ざり合って、次第に互いに通じ合う言葉ができていきました(「山の手言葉」)。この言葉をベースとして、実際には多くの文学作家、国語学者、メディア関係者、教育者たちの無数の努力を伴いながら次第に成立していったのが、国家語たる「国語」の「標準語」、いまの共通語の姿です。

 そのような経緯から生まれた共通語は、成立史上、アクセントを東京山の手から、発音を京言葉から取り入れています。それゆえ、江戸っ子(山の手言葉でなく下町言葉を話す)すら訛る(シとヒの入れ替わり、連母音変化など)のに、関西人が「訛っている」と人から言われことは皆無なのです。

 例えばバラエティ番組で各地のタレントが方言を交えて話すときを思い浮かべてみましょう。そのタレントさんが聞き返されたり、言い直したりする場面が仮にあるとして、関西弁の場合は、他の方言と比べるとどうでしょうか。関西弁だと、固有の語(例:ほかす=捨てる)を発したときには「それなに?」と聞き返されることもあるでしょうが、発音が聞き取れないことはまずないでしょう。

 確かに、関西弁が既に広く浸透していることもありますが、そもそも発音が共通語と同じなので、関西弁のままでもコミュニケーション上の支障が生じないからこそ、メディアにそのまま乗って全国に流通しやすいのだとも言えます。すでに流通しているのであれば、関西弁をわざわざ共通語に直す必要もなく、ラクですから、関西弁の人が関西弁で通している場面を世間の人が多く見かけることになります。

 諸先生方の回答では触れられていない点として、このことはぜひ指摘しておきたいと思います。

2023/03/10Posted
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