積惟美:とても面白い問いですね。音楽プレーヤーはすでにスマートフォンに代替されており、かつ音楽サービスもサブスクが主流になっている昨今の状況に照らすと、iPodの生産終了は合理的で、ウォークマンの生産継続は非合理な行動のようにも感じます。理由はいくつか考えられますが、私はSONY内部の人間ではないので、あくまで個人の推測としてお聞きください。
(1) 残存者利益
まず考えられるのは残存者利益が獲得できるからです。残存者利益とは、過当競争や収縮傾向にある市場において、競合が撤退した後、生き残った企業のみが市場を独占することで得られる利益です。実際に、アップルが撤退したことで、主な音楽専用携帯端末市場はSONYの独占状態となっています。この状況においては、後に説明する音楽専用携帯端末を求める一部の顧客に対して、価格競争を行うことなく、ウォークマンを販売することができます。そのため、小規模ながらも高い利益率のビジネスを行うことができるため、積極的に撤退する理由がないということが考えられます。
(2)オーディオオタク向け高級ニッチ市場
残存者利益の話とも関係しますが、音楽視聴がスマホ・サブスク主流になった現在においても野外で超高音質の音楽を楽しみたいというニーズは残ります。いわゆるオーディオオタクと呼ばれるような人たちです。彼らは超高音質のスピーカーやそれを再生する環境のために多額の投資を躊躇しません。そういう人たちはおそらく10~30万円するようなウォークマン「WMシリーズ」のような機器を買ってくれるでしょう。価格競争もほぼないので、高利益率のビジネスとなります。
(3)過去の栄光とSONYのアイデンティティ
この要因はおそらく無いかもしくは非常に弱いとは思いますが一応。ソニーが現在の大企業になった立役者は1979年に発売したウォークマン一号機とそれにつづく歴代のウォークマンの大ヒットです。確かダイソン創業者のジェームズ・ダイソンもSONYを尊敬しており、本社には初代ウォークマンが展示されていたように思います。そのため、SONYといえばウォークマンであり、それがアイデンティティとして残っており、なかなか撤退という判断はしづらいのかもしれません。
他にも理由はあると思いますし、問いとして非常に面白いと思います。是非、ご自分でも何らかの仮説を立てて、検証してみてください。