堀田隆一:私もずっと質問者と同じ疑問を長らく抱いていましたので,たいへん共感します. よくこれだけ集めてくれました! すっかり諺の勉強になってしまいました.確かに反対の意味の諺,多いんですねえ. 諺というのは,人類の英知のはず.その割には真逆の教訓を垂れる諺が多いなぁ,ちょっと信用ならなくなってきたぞ,と. 長年この問題について悶々としたままに,私は縁あって英語を専門とするようになり英語の諺を漁るようになったのですが,実は日本語と同じなんですネ! 日本語の「終わりよければすべてよし」と「始めよければ終わりよし」.こりゃ,ひどい矛盾だなぁと思っていたところ,英語でシェークスピアの有名な All is well that ends well. に対して,A good beginning makes a good ending. というのもあるらしいとの情報が! 「覆水盆に返らず」と「明日は明日の風が吹く」も,結局,やらかしちゃったことはダメなのですか,やり直しが利くのですか,ということなワケですが,両方あるというのです.英語でいうと,An occasion lost cannot be redeemed. と Tomorrow is another day. というペアです. 英語の諺でとりわけキツいなと思うのが,One is never too old to learn. と You can't teach an old dog new tricks. です.後者は身も蓋もない. この諺の矛盾について悶々からイライラに変わりかけていたとき,安藤邦男『ことわざから探る 英米人の知恵と考え方』(開拓社,2018年)に出会いました.以下,pp. 11-12 より. > さて,このように意味の正反対のことわざに出会うと,割り切ることの好きな人は,「どちらかハッキリせよ」といって不満に思うかも知れません.あるいは,ことわざは昔の人が思いつきで言ったことだから,非科学的で矛盾していて当たり前,だからあまり意味がないと思うかもしれません.しかし,それはことわざの何たるかをわきまえないものというべきでしょう. > > たしかに,これらは一見矛盾しているように思われます.しかし,何かを成し遂げようとする場合のことを考えてください.始めの段階では,私たちは「始めが大事」と言って覚悟を新たにしなければなりませんが,終わりの段階になればそのときにはまた,「終わりが大事」と言って気持ちを引き締めなければならないのです.ことわざは,それぞれの状況のそれぞれの段階における知恵ですから,けっして矛盾しているわけではありません.それぞれの段階に応じて重点の置き方が違っているだけであって,どちらも真実なのです. 完全に脱帽です.これが,私が子供から大人になった瞬間でした.この開眼経験について,恥を忍んで,ブログの拙論「#3425. 英語の対義ことわざ」,および Voicy ラジオ「英語の諺 ー 真逆の教訓はやめて欲しい!?」でも語っています.どうぞご参照ください.(Read more)
乃南アサ:まず、世の中には「白か黒」しかない、ということはないんです。大抵はグレーゾーンにあって、その濃淡の中で物事は決まっていきます。ですから「結局、どっちが正しいの?」と思われることは往々にしてあるでしょうが、たいていの大人はそのときどきによって「こっちが正しいこともあれば、あっちが正しいこともある」と答えるはずです。世の中に「これ!」という答えは、そうはありません。この世の中で間違いないことといったら、おそらく「人はいつか必ず死ぬ」ということくらいだろうと思います。ですから、「いつか必ず死ぬ」と分かっている人生の中で、そのときどきに自分なりにもっとも納得のいく結論を出しながら進んでいくのがいいのだろうと思います。恥を恥とも思わず、人を裏切り傷つけ、利用することだけを考えて生きていくのも一つの人生。何度となく人に裏切られ、その都度嘆き悲しみ、ときに怨みながら生きるのも人生。自分に誠実に、また人にも誠実にありたいと、その都度懸命に考えて、傷つくことがあったとしても、精一杯に最善と思う道を選んで生きるのも人生です。(Read more)