大学名誉教授野田:宇宙工学の専門家ではないのですが、報道での軌道を見て、こんな方法をとるんだと感心しました。アポロの時は、(1)巨大なサターンロケットで司令船と着陸船を地球軌道に打ち上げ、(2)司令船のロケットで地球軌道から月に直接向かい、(3)逆噴射で月軌道に入りました。その後、(4)着陸船が逆噴射で月軌道から離脱して着陸しました。帰還時は、(5)着陸船の下部が発射台となって上部にあるロケットで月軌道まで戻って司令船とドッキングして、(6)司令船のロケットエンジンで地球をめざし、(7)先頭部のカプセルでパラシュートを用いて地球に着水しました。まさに、力業です。一方、今回の民間月着陸衛星は、(1)ロケットで地球軌道に打ち上げた後、(2)エンジンを用いて地球軌道から徐々に地球から離脱して地球と併走しながら太陽の公転軌道に入っています。その後、(3)軌道が月と交わるタイミングでエンジンを使って月軌道に乗り移ってます。(4)月軌道から離脱して月面に向かうときにまたエンジンを使い、最後に(5)月面着陸するときにもエンジンを使います。このように、出来るだけ燃料が少なくてすむ旅程で進んでいます。今回の失敗は、月面からの高度の計測がうまくいかず、着陸時に燃料が足りなくなったためのようです。ぎりぎりの燃料を計算していたのですね。アポロとの違いは、無人衛星ということです。有人のアポロでは、人間が生存できるだけの酸素や食料も必要で、短時間に往復する必要がありました。一方、今回の無人衛星では、時間がかかっても燃料を節約して重量も減らしたかったためだと思います。民間らしい発想ですね。