「あの人には勝てない」という気持ちと折り合いをどうつけるか、ですね。あなたがおっしゃる「インターネットの登場によって、何事も可視化」というのは非常によくわかりますし、実感できます。
私が個人的に心がけているのは、自分はこの活動に「何のために取り組んでいるのか」を認識することです。変な表現ですけれど「何となく一生懸命に」や「何となく頑張る」のではなく、私は「この目的のために頑張る」ということを明確にするという意味です。
私の場合には、さまざまな文章を書いたり、本を書いたりすることが活動になっていますが、その多くは「自分の読者さんに(広い意味で)喜んでもらいたい」という気持ちが根底にあります。「期待に応えたい」と表現してもいいですし、「『なるほど、これはおもしろい』と思ってもらいたい」と表現してもいいです。ともかく《読者のことを考える》というのが中心にあります。
あくまで私の場合ですが、その《読者のことを考える》という点でブレがなければ、あまり「あの人には勝てない」という気持ちを抱くことはなくなります。もちろん、まったくそんな気持ちを抱かなくなるわけではありませんけれど、自分の気持ちが萎える方向で「あの人には勝てない」と思うことはほとんどありません。自分もがんばろうと励みにする方向で「あの人には勝てない。あの人はすごい」と思うことはありますけれど。
どうして「あの人には勝てない」と感じないかというと、自分の文章を読んで下さる読者さんのことをよく考えるなら、他の人との比較が無意味になるからです。私の読者さんは、私が書いた文章を読んで「おもしろい」とか「これはちょっと難しすぎてつまらない」とか感じるわけですが、それは他の人と比較してもしょうがないことです。私はそのように思います。
確かに、インターネットの登場によって、さまざまなことが可視化され、ランキングがつけられ、数値化され、しかもリアルタイムに評価されるようになっています。卑近な話をするならば、アマゾンでの人気ランキングやカスタマーレビューの★の数などがそうですね。
しかしながら、それらの可視化された評価は、ある一つの側面を切り取ったものにすぎません。たとえば売れ行き。たとえば気に入った人の数。でも、私が狙っているのは、もっと細やかなことです。それは、自分の読者さんに「なるほど、これはおもしろい」と思ってもらうこと。もうちょっと言うなら、私は「たった一人のあなた」に向けていつも本を書こうと思っています。本は相性ですから、私が書いた本を気に入る人もいれば、気に入らない人もいます。それは避けがたいことです。でも気に入ってくれた人「たった一人のあなた」に深い喜びを伝えることができるなら、私はとてもうれしく思います。
……と私は自分の活動をするときに考えるように心がけています。そうすると、あまり他の人が自分よりも優れているかどうかが気にならなくなります。自分の活動で、自分が大切にしている目的は何なのかを細かい粒度でていねいに考える。そしてそれをしっかりと追求していく。そうすれば、あまり「あの人には勝てない」で悩まなくなります。「あの人には勝てない」と感じたとしても、その直後に「でも、それはそれとして、私は私の読者のために、最善を尽くそう。わたしは『たった一人のあなた』に自分の書いた文章を届けたいのだから」と考えるでしょうね。
私は、そんなふうに考えています。
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私のことばかり書いてしまいました。あなたはいかがでしょうか。あなたの活動(趣味や仕事)で追求したい本当の目的、コアにあたる部分、自分の狙いはどこにあるでしょうか。それがもしも「他の人に勝つこと」ならば、確かになかなか苦しいでしょう。でも「他の人に勝つこと」ではなくて、「自分ができる何かを深めていく、高めていく、広めていく」ことが目的なのであるなら、気持ちを切り替えることはできそうです。
「自分は、何のためにこの活動をしているのだろう」。胸に手を当てて、本気で考えてみてください。
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