父は中学校の理科教師でした。

父からは「教えること」を教えてもらいました。といっても直接的に学んだわけではなく間接的にです。父はよく食卓で白い紙を広げて図を描きながら、原子構造のことや、電気のことや、グラフの描き方や、気候のことや、天体の動きなどを教えてくれました。その態度、その様子を見て「教えること」や「人に伝えること」はどうあるべきかを学んだように思います。もちろんそこで教えてもらった理科の知識は役立ちましたが、それよりも「教えること」を間接的に父の態度から学んだことは大きかったと思います。それは現在、自分が本を書くときにどれほど大きく役に立っているかわかりません。

母は病院の看護師でした。

母からは「人の話を聞くこと」を学びました。といっても直接的に学んだわけではなく間接的にです。母は夕飯の食卓で家族の会話によく耳をすませ、その場を保つための大切な行動をとっていました。誰かの話に相づちを打ったり、黙っている人がいたら話を振ったり、その場が沈んだ雰囲気になったら気分を変える一言を言ったり。直接母親から「こういうときにはこうするといいんだよ」と教えてもらったわけではありませんが、「人の話を聞くこと」を間接的に母の行動から学びました。それは現在、自分が生活していく上で非常に役立っています。

そのように私は、父と母から大切なことを学びました。

それは必ずしも「教育」という形でとらえられるものではありませんし、父母も「教育」だとは考えていなかったかもしれません。でも、父から学んだ「教えること」も、母から学んだ「人の話を聞くこと」も、私にとっては紛れもなく「教育」であり、しかもかけがえのない教育であったと思います。

毎日の生活の中で父母がやっていたことそのものが、私にとっては大切な教育だったのです。

なお、父から学んだことについて詳しくはこちらのマガジンにまとめてあります。

https://mm.hyuki.net/m/med8d57103df4

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