堀田隆一:疑問詞の格変化についての質問をいただきました.英語史を通じて疑問詞の格変化は衰退の一途をたどってきましたが,古英語にはもう少し豊富な格変化がありました.
まず「格変化」し得るのは(代)名詞(相当語)ですから,候補としては who, what, which ほどに絞られます.when, where, how
などは副詞相当語ですから,格変化し得ないことになります.したがって,以下では who, what, which についてのみ議論します.
who はご指摘の通り,現代英語で who (主格),whose (所有格),whom (目的格)のように格変化します.古英語では,hwā
(主格),hwone (対格),hwæs (属格),hwǣm
(与格)のように格変化しました.比べてみると想像がつくと思いますが,対格が与格へ融合して成立したのが現代の目的格 whom です.
what は現代では格変化しないようにみえますが,古英語では格変化は健在でした.hwæt (主格),hwæt (対格),hwæs (属格),hwǣm
(与格)の通りです.who (hwā) と what (hwæt)
は,実はそれぞれ同一語の「男・女性形」と「中性形」にほかなりません.中性形は常に主格と対格が同形となりますので,古英語でも現代でも what は what
のままです (cf. What is wrong? と What do you like?)
.与格は対格に飲み込まれ,属格は廃用となりました(ただし,関係詞としての whose は先行詞としてモノを取ることができますので,古英語の中性の hwæs
の機能を引き継いでいるともいえます).
who と what
の格変化は,文法性が消失した中英語期以降に強化されてきた男・女性(=有性)と中性(=無性)のカテゴリー対立に沿う形で,互いに棲み分けするように発達し,現代に至ります.ちなみに,中性
hwæt には hwȳ という具格形があり,これが現代の why に発達してきました.つまり,現代の what
にもかつての格変化の生き残りが具格という形で存在するといえるのです(共時的にはそのように意識されていませんが).
最後に which についてです.古英語では hwilċ いう形で,これは語源的には who + like (どのような)という語形成です.like
に相当する後半要素は形容詞ですので,hwilc 全体も形容詞として格変化しました.一般に形容詞の格変化は中英語期中にほぼ完全に消失しましたが,which
も例外ではありませんでした.したがって,現代でも which は格にかかわらず which のまま,ということになります.
回答は以上です.「hellog~英語史ブログ」より,関連する以下の記事もご一読ください.
・ 「#51. 「5W1H」ならぬ「6H」」
・ 「#4079. 疑問詞は「5W1H」といいますが,なぜ how だけ h で始まるのでしょうか? --- hellog ラジオ版」