量子コンピュータの理論といっても結構広いというのと、おっしゃるように、人それぞれ最適な環境というのは変わるので万人にとってベストかどうかはわからないですが、人におすすめできるような研究室運営は心がけています。以下、どういう人にとってどういう観点でオススメかというのをまとめておきます。

  • 研究室の研究テーマについて

    私の研究の守備範囲はかなり広く研究室で扱っているテーマも広いです。大きく分けてこれまで3つのジャンルの研究をおこなってきました。量子コンピュータそのものの作り方の理論研究(量子計算モデルや量子誤り訂正、誤り耐性量子コンピュータなど)。量子コンピュータの応用の研究(機械学習、物性・化学・材料、金融、量子アルゴリズム)。量子計算や量子情報の基礎的な研究(量子計算量理論、量子計算複雑性)。となります。応用研究から基礎研究まで広く研究しています。それぞれの分野において、藤井研よりも優れた研究室はあるかもしれません。特に、量子計算の基礎理論(計算量理論、計算複雑性、量子計算暗号プロトコルなど)については、京都大学の森前さんや、名古屋大学のルガルさんなど研究室の方がより専門的で良い環境だと思います。量子コンピュータの応用よりでは、慶応の山本研界隈も、IBM Q hubがあったり、量子コンピュータの実機を活用したり良い環境かと思います。量子誤り訂正や誤り耐性量子コンピュータの研究ができるところが少ないのは問題ですね。。。藤井研は、誤り耐性量子コンピュータとNISQの応用研究を両方やっている、という点でユニークな研究室だと思います。また、個人的に基礎と応用で線引きしたり、分野の境界を設けたりするのは良くないと思っているので、そういうごちゃごちゃとした研究をやっているというのも特徴的かもしれません。

  • 研究室の環境について

    学生が多いです。多分現時点で25人くらいはいます。博士課程の学生さんも多いです。なので、研究内容をディスカッションする相手には困らないです。他大学から来た学生さんや、異なるバックグラウンドの学生さんなど多様な学生さんが多いので、そういった人たちと交流することに価値を感じる学生さんには良い環境だと思います。2019年に立ち上げたので、これまでは先輩が少なかったですが、だいぶ人が揃ってきたので、いろんなことを教えてもらえる先輩が増えてきたというのも良い点だと思います。また、学生以外にもプロジェクト関係や阪大にあるQIQBセンター所属の研究者の方が多いです。量子コンピュータに関係する他の分野のプロフェッショナルたちがいるので、なにか専門家に聞きたいことがあったり、共同研究がしたいってなったときにすぐに、近くで解決することができます。大型の計算機サーバーや、阪大で開発中の量子コンピュータなど、計算資源も豊富にあります。量子コンピュータの応用研究に必要なツールやシミュレーションのノウハウもあるので、こういう環境は良いところだと思います。

  • どういう学生さんが来ると藤井研の環境が活かされるか

    理論研究は、主体性と自律性がすごく重要だと思っています。モチベーションがなくただ、周りに流されつつ研究活動をしたいという人には向いていません。何を知りたいのか、何がわかっていないのか、何が問題なのか、自分で考え自分で調べ適切に人に議論し助けを求め、自分が助けてあげれることは助けてあげて、理論研究という個人プロジェクトを人とも関わりをもちながら前に進めることができる人が向いていると思います。もちろん教員や学生メンバーは、全力で教育し手助けをしますが、研究室として共通した実験装置を用いて同じ方向性を向いて実験をやっている、という感じではないのですね。研究室としての方向性感や私自身が興味のある方向性とかはありますが、もっと自由を重んじて研究をしています。ただ、最初からテーマを自分で探索するのは難しいので、B4や修士は研究の方向性はそれぞれの人の趣味やスキルに基づいて大体教員が決めています。特に、これがやりたいという学生さんには「どうぞー。教えてねー。」というスタンスでやっています。

  • 過去の自分を振り返って藤井研は当時の自分にとってベストな研究室か

    私の出身研究室は必ずしも量子情報をやっている研究室ではなかったです。しかし、楽しかったです。主に、先輩や後輩などテーマは違えど研究をしている戦友たちと学生生活を送る日々がかけがえのないものでした。2019年の立ち上げ期からコロナの時期が長かったので、学生生活を共有できる楽しい研究室になっているかどうかは謎ですね。そういう研究室にしていかないとと思っていますが、その辺は教員が指示してできるものではないので、なんとも。。。上記の専門がどうとか同級生や先輩が多いとかどういう研究分野をやっているかなんで、実はどうでもいいことかもしれません。理論研究であればできる人は、どんな環境でも研究ができるとも言えます。ただ、専門家が周りにいないと非効率的でした。いろいろ教えてもらえないので苦労もします。ただ、その苦労は今の私にとっては骨となり肉となっていることも確かです。私は人とワイワイ・ガヤガヤすることが好きですが、修士・博士のときは、研究分野についてわりと引きこもって集中してあまり他の大学の学生さんや研究者と交流せずに研究をしていました(毎日uploadされるarXivが友達でした)。そういう籠って研究をする、という時期も重要かもしれません。外の人と交流することをやるようになったのは自分の研究が確立されてきたD2,3くらいからだったかなーと思います。交流することも大事ですが、そのときにやりとりする「自分の考え」をしっかり持つことも重要かなーと思います。私の場合、井の中の蛙で、外のすごい人々を知らずに(工学部なので理学部のような自主ゼミ文化もないし、学部のころは自主ゼミみたいなことも全然やってなかった)自分が成長していったので、途中でこの人にはかなわないなーと先を見通してしまったり、諦めてしまう機会がなかったというのも良かったかもしれません。自分の成長に合わせて、ちょっと先が見えるようになって、それを目標にやってきた感じです。そんな学部時代の私が藤井研に入ったら、「この人たち凄すぎて自分は敵わない」とおもって研究者にはなってなかったかもしれません。それと、分野の強い後ろ盾がいなかったり、研究費も潤沢にある感じじゃなかったりというので反骨精神・ハングリー精神・忍耐力が身につきました。なので、どのような研究室がベストか、というのは本当に難しいと思いますね。いろんな研究室をみて自分の直感にグッとくる研究室を選ぶのがいいと思います。

1 year ago

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Past comments by Keisuke Fujii
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