橋本 省二:その昔、自分で埋めた石器を掘り出して「国内最古の石器を発見!」とやった人がいました。STAP細胞も本質は同じだったと思いますが、その後の騒ぎのせいで亡くなった人まで出て、おっしゃる通りとても後味の悪い事件になりました。おかげで冷静な検証ができず、いろんなことがうやむやになってしまったのは残念なことです。
私が一番ショックを受けたのは、コピペだらけの学位論文を通してしまった大学の杜撰さです。教育・研究機関としての存在意義を疑われる事態だと思いますが、その後どうなったんでしょうね。もう一つは、国内トップと目される研究所のトップ研究者らが「世紀の大発見」に浮き足立って大した検証をすることもなく論文を出してしまったこと。普通なら、重要な発見ほどいろんな角度から検証して確実にしてから発表するものだと思いますが、そんな意識はなかったみたいですね。この分野は大丈夫か?
そんな感想すら持ちました。
一例だけをもって一般化するのはけしからん。他の大多数はちゃんとやっている。そんな声が聞こえてきそうですが、世間はそうは見ないでしょう。それが証拠に、その後すべての研究者は「研究倫理教育」と称するものの受講を義務づけられることになりました。「人のものを盗んではいけません」「論文でコピペはいけません」。教授を始めとする研究者らが全員そろって、そうした幼稚園レベルの講習を受けるのです。盗みをする人が講習を受けたおかげでやめると思います?
それでもやらないといけない。研究費を申請する前提条件になっているからです。大学は受講記録をちゃんとまとめることを求められます。こんなつまらないことで日本中でどれだけの費用、時間、労力が無駄になったことでしょう。大学によっては専任のチームができたところもあるかもしれません。
これ一つだけを取ってみれば必要なことかもしれません。反論はなかなか難しい。ですが、ここのところ大学にはこの類の小さな話が次々に降ってきて、その度に仕事が増え、教員の誰かが研究をやめてがんばるか、あるいは専任の誰かを雇うことになりました。その分はきっと若手の研究職が失われたんですね。こうして少しずつ日本の研究力は損なわれていったのだとしたら...
、ため息が出ますね。