小川仁志:たしかに資本主義の限界や、民主主義の劣化が叫ばれて久しいですね。その都度マルクスブームが起こるのですが、長続きはしません。２００８年の世界金融危機で強欲資本主義が批判され、新型コロナのパンデミック下でも資本主義の生み出す格差が問題となりました。だから今また世界的にマルクスブームになっているわけですが、なかなかそれがオルタナティブにはなり得ないのが現状です。一度お金の味を知ってしまった人間は、そう簡単には変われません。テクノロジーと同じです。一度生み出されたテクノロジーは、それがどんなに危険なものであれ、この世から消えることはないのです。原子力のように。その意味では、資本主義も民主主義もテクノロジーだといえます。いずれにしても、歴史が繰り返しているのも事実で、その意味では単にブームが繰り返されるだけで、根本的に新しい思想は出てきていないかのようにも見えます。ただ、他方でテクノロジーは着実に進化しています。テクノロジーと思想が同じであるとすれば、新しいテクノロジーがきっかけとなって、新しい思想が生まれる可能性はあります。現に、インターネットは２０世紀末以降の世界を大きく変えました。これは人と人がダイレクトにつながる仕組みであり、思想といってもいいでしょう。市民社会のあり方もインターネットによって大きく変わりました。あるいは、その延長線上にメタバースが今新しい世界の枠組みを提起しようとしています。ＡＩもそうかもしれません。もちろん、きっかけはテクノロジーだけではありません。地球を取り巻く様々な変化も新たな思想を生み出す契機となっています。今起こっている気候変動もそうですし、来るべき宇宙時代もそうでしょう。したがって、個人的にはまだまだ新しい思想が生み出されると信じています。いや、私自身、それをやっていかなければならないと思っています。