積惟美:企業の競争力の源泉がブランドを含めた無形資産になっていくなかで、非常に重要な論点だと思います。測定できなければ改善もできないため、無形資産の価値を適切に測定できれば企業戦略の立て方が大きく改善していくでしょう。しかし、ご存じの通り、無形資産は目に見えない資産であり、評価・測定が非常に難しいです。 現在、一般的に利用されている評価方法にはそれぞれ問題点や限界がありますが、それらを簡単にご紹介いたします。 * 残差アプローチ 企業の時価総額(企業価値)と貸借対照表の純資産の差をブランド価値とする考え方です。ブランドをはじめとしたほとんどの無形資産はオンバランスされていないため、この差は、株式投資家によるその企業の有する無形資産の評価額と捉えることもできます。ただ、このアプローチの問題点としては、ブランド価値とされているその差の中身がわからないという点です。たとえば、ブランド価値の他にも、その企業の投資機会・成長性、技術力、その諸々が含まれているため、純粋なブランド価値とは言えません。 * コストアプローチ ブランドの形成に要した支出額をブランド価値とするアプローチです。簡単にいうと、広告宣伝費等の費用の累積の総額をブランド価値とします。このアプローチの問題点は、ブランド形成を目的とした投資が必ずしも成功するわけでなく、支出した費用とそれにより形成された(真の)ブランド価値との対応関係が不明確であるという点です。 * マーケット・アプローチ 実際に市場で取引された類似のブランド価格で当該ブランドを評価しようという考え方です。この方法は、比較するブランドの類似性や選択に主観性が入ること、類似したブランドの売買が見つからない、そのデータを入手できないなどの大きな問題があります。 * インカム・アプローチ ブランドがもたらす超過収益または将来キャッシュ・フローの割引現在価値をブランド価値とするアプローチです。ただし、ブランドがもたらす超過収益や将来キャッシュ・フローの見積り、割引率、期間等の設定に非常に主観性が入るという問題があります。 いずれも完璧な方法とは言えませんが、これらの方法を使ってブランド価値を評価しようという取り組みは多く行われています。 個人的には、残差アプローチで算出した無形資産の価値を要素分解し、それぞれの要素に関するアンケート等の調査データで共分散分析などを行ってブランド価値を抽出することで、客観性を担保しつつ測定するというやり方がベターかなと思います。もしくは、できる限り厳密に測定したインカム・アプローチですかね。 上記の詳しい方法(とくにインカム・アプローチ)や類型については、ちょっと古い資料ですが、下記の経済産業省・企業法制研究会の資料に載っているので、是非参考にされてください(クリックでリンクに飛びます)。 経済産業省・企業法制研究会(2002)「ブランド価値評価研究会報告書」(Read more)