福島真人:この点は何と言っても、原始仏教から、上座仏教そして大乗仏教という形で仏教が変化する中で、その内容も大きく変わったという点と関係します。戒律は原始仏教で生まれ、東南アジア ・南アジアに広がった上座仏教で 組織的に組み込まれました。ここでの発想の基本は、僧侶というのは基本お釈迦さんのそれに倣い、その聖なる生活によりいわば功徳の源となるが、他方生産活動ができないので、在家の信者はその生活を支えることで、その功徳の分け前を得るというシステムです。そのサポートによって在家も現世の生活あるいは来世の運命を改善できる、そうした協力体制です。 ところが大乗仏教になると、この仏陀の意味が大きく変化し、個人としてのお釈迦さんではなく、超越的存在になると同時にその数も増え、その諸仏と一般大衆の関係という形で全体の構図が大きく変わります。こうした新システムは、上座仏教的な相互依存体制とは異なるシステムなので、その中では戒律の意味も大きく変化します。実際本邦では浄土真宗のように最初から妻帯を認め、いわば半僧半俗という中間的な体制をとる派も現れましたが、江戸時代になり、寺請制度によって 寺院は一種の役所的な機能も持つようになり、最終的には明治新政府が、僧侶の肉食妻帯は政府は関わらないということで、現在見るような形になったものです。 ただし正直にいうと、そもそも出家は文字通り家をでることで、頭を剃る理由というのは世俗を離れたことの象徴のはずですが、それが家族を持ち寺を継ぐ、というのはいわば日本の伝統的イエ制度に適応した形になったという印象です。原始仏教からはだいぶ離れますが、最近では原始仏教・上座仏教に関する文献も容易に手に入るので、現状に疑問を持つ声は今後強まるのではないでしょうか。