結城浩:私の見聞きしている範囲は非常に狭いものですけれど、新しい事業を創出するときに小さな一つのアイディア(もしくは思い付き)だけで何かが始まることは少なくて、そのアイディアを掘り下げたり、広げたり、実現可能性を考えて磨いたりというプロセスが必要になると思います。その意味で、匿名質問箱のような形式から得られるものがそのプロセスに有効に効くとはあまり思えません。
実は多くの人は質問するのがうまくありません。たった一つの質問文だけで真意をつかむのが難しいことは多々あります。「いまの質問の○○というのはこういう意味ですか?」や「たとえば○○みたいなものをイメージしていますか?」のようなやりとりがあって初めて真意が分かることはめずらしくありません。匿名質問箱ではそういう「やりとり」が難しくなりますね。そもそも匿名質問箱というのはその性質上、あまり質問者は自身の情報を詳しく書きたがりません。ですからなおさら意味を理解するのが難しくなるものです。回答者はしばしば「エスパー」のような能力が必要になります。
匿名性を保ちながらも仮のアイデンティティを利用して「やりとり」が可能であるとか、詳細なプロフィール(属性情報)を前もって入力しておくことで前提条件を明確にするとか、あるいは最初から決まった属性を持つ人々のみを対象にしたものであれば、意義ある情報収集が可能になるかも知れません。
最近ではChatGPTのようなチャットAIも出始めていますので、それらと匿名質問箱を組み合わせて、運営者が特に得たい情報に近い話題に質問者を誘導したり、質問者に対してAIの方から質問することによって、有用な情報が得られるかもしれません。