彩恵りり🧚♀️科学ライター✨おしごと募集中:まず、火星の塵に悩まされるような火星探査車は、当初の計画を大幅に超える運用期間をすでに達成していた、という点に注意が必要だよ。インサイトは計画の2倍、スピリットは計画の20倍以上も長く運用されたという点で、むしろいつ問題が起きてもおかしくない状況に置かれていたよ。祝融号も現状では休眠モードから再起動できないものの、休眠に入るまでにすでに計画の4倍近い運用期間を達成しているよ。
火星は極めて乾燥しているので、塵の除去というのはかなり難しいよ。塵は静電気で付着しやすいしはがれにくいし、鋭い形状をしているので摩擦によって表面を傷つける恐れがあるよ。それにどんな種類であれ追加の付属物は、厳しい重量条件の下では考えないといけないね。しかも、うまく動作しないリスクは常に付きまとうよ。実際、インサイトでは除去する工具を取り付けるか検討したものの、結局のところ計画期間内で塵が積もっても十分な動作が保証されるように太陽光パネルの面積を広げることで対処し、そして計画通りに問題なく動作したよ。太陽光パネルの面積を広げることは、重量や機材の故障のリスクに対して最も良いと判断されたということだよ。
あるいは、そもそも太陽光に頼るから問題なのだと、原子力電池を積むことで対処している探査車が登場しているね。これも分厚い塵が内部からの放熱を妨げる懸念はあるものの、今のところは問題となるほど分厚く積もる前に寿命を迎えてしまうと考えられているよ。ただ、原子力電池というだけあって、放射性物質を積むという部分がネックになるよ。安全性は無論のことだけど、製造面も問題を抱えていたよ。例えばアメリカでは1980年代から2013年まで、原子力電池用のプルトニウム238を製造せず、ロシアから購入していたよ。使っていた核施設が古くなりすぎて、安全上の理由からだったよ。ただ、ロシアも2010年から作っておらず、在庫が切れそうだったので、仕方なく製造を再開した、という事情があるよ。原子力電池は高出力で昼夜関係なく大量の機材を運用できるメリットはあるけれど、放射性物質の取り扱いは高コストになりがちなので、探査全体の費用との兼ね合いが難しくなるよ。
まだまだ火星は遠い天体で、高い費用を払ってもそもそも基本動作すら満足にできないかもしれないよ。そんな現状、動作するかもわからない複雑な清掃用具をゴテゴテ取り付けてそれに頼るのは、コストがかかる割に保障面が釣り合わないよ。むしろよく条件が分かっている太陽光パネルの劣化を見越しての対応をするのが現実的で、実際うまく行っている、というのが現状と言えるんだよ。将来、最初からかなり長い期間を計画していて、塵の除去が計画期間を満たすために必須となれば、塵の除去を行う器具も標準搭載になるかもしれないよ。ただ、今はそこまでは技術は成熟していないよ。よって、次の火星探査計画では、お試しとして清掃するための器具を取り付ける可能性があるかもだけど、つけて当たり前となるにはまだまだ時間がかかると思うし、あくまでそういった器具が動作しなくても計画期間を満了するつもりで火星探査車を設計すると私は思うよ。
ちなみに、お試しの清掃というのは、インサイトが実際に試してみたよ。と言っても専用の用具はないので、シャベルで火星の土を掘り、わざと太陽光パネルに落としてみる、というやり方だよ。こうすると、降り積もっている塵よりも大きな土の粒が乗っかるので、風が吹いたときに粒に巻き込まれて塵が除去される確率が上がるよ。そして実際、次の風が吹いた後、太陽光パネルの出力が瞬時に増大したよ。このテストはインサイトが正式に運用を終了する少し前に行われていたもので、風がいつ吹くかもわからないので、実際のところダメで元々、最悪壊れてもしょうがないという方針であったことは想像に難くないね。ということで、当面は清掃用具も、ある意味で余計なことをした結果、これが原因で探査機全体がダメージを受けても大丈夫な状況下で試験が行われると予想されるよ。