この世界は本当に現実なのか。先日買ったサマージャンボが当たっていたら人生は変わっていたのに。私だってそんなことを思うことはあります。では、宇宙の素粒子すべてをシミュレーションで再現できるかどうか考えてみましょう。「ラプラスの悪魔」のことをご存知のようなので問題は量子論ですね。

量子論の基本原則は、あらゆる状態はすべて同時に存在しているということです。状態をあらわすのは波動関数で、いろんな状態をあらわす波動関数を重ね合わせたものが現実に対応しているわけです。実際に観測するとそのどれかの状態がある確率で実現したりしますが、背後にはすべてを重ね合わせた波動関数があり、そのシミュレーションは波動関数の時間的変化を追いかけることになります。そのためには、可能なあらゆる状態を考え、重ね合わせの様子がどう変化していくかを見るわけです。

宇宙全体はちょっと大変ですから、粒子が10個だけある宇宙を考えてみましょう。しかも、それぞれの粒子が取りうる状態は2つだけということにします。この宇宙の取りうるすべての状態を数え上げると2の10乗、つまり1024個になりますね。波動関数は1024個の状態を任意の割合で重ね合わせたもので、それが時間とともにどう変化するかを見ればいいわけです。これなら計算機を使えばできそうですね。では、粒子数が100個だとどうでしょうか。取りうる状態の数は2の100乗。計算してみると10の30乗くらいです。現在最速のスパコンはエクサフロップス(毎秒10の15乗回の計算ができる)にちょっと届かないくらいの性能ですので、この数の状態を扱うのはすでに大変そうです。

本当の宇宙は素粒子100個でできているわけではありません。もっと多いですね。数グラムの物質の中にある原子・分子の数はアボガドロ数くらい。つまり10の23乗にものぼります。地球は10の27乗グラムくらい。太陽は地球より10の5乗くらい重い。銀河にある太陽みたいな星の数は10の12乗くらい。宇宙にある銀河の数は10の12乗くらい。全部かけると、宇宙にある原子の数は10の80乗くらいですか。しかも、一つの素粒子がとる状態は2ではなく、その位置や速度などを考えると無限個と言ってもいいくらいです。それではあんまりですから、仮に100万個としておきましょうか。10の6乗。そうすると宇宙のすべてをあらわすのに必要な状態は100万の10の80乗。つまり10の480乗になってしまいました。480桁の数です。どうしましょう。かなり大変です。

こんなときのために量子コンピュータがありました。量子コンピュータは、複数の状態を同時に扱って計算ができるマシンです。10個の量子ビットがあれば2の10乗個の状態を扱えることになります。現在実現できているのは数十個の量子ビットをもつマシンですが、将来はもっと発展するはずです。量子ビットが1つ増えると扱える状態数は2倍になります。これなら行けるかもしれません。でも、よく考えてみましょう。いまシミュレーションしたいのは宇宙にある素粒子すべてです。その状態をすべて扱うには、宇宙にある素粒子の数と同じ(あるいはそれ以上)の量子ビットが必要になりそうです。宇宙のシミュレーションをするのに宇宙のすべてを使う必要がある。これは一体どういうことでしょうか。もしかして私たちの住む宇宙はシミュレーション? あれ? 私にもよくわからなくなってきました。

2021/08/19Posted
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