菅野 由弘:トライトーン、三全音、増四度音程は「悪魔の音程」と言われたりもする、たぶん、民族を超えた人類共通の「不快音程」だと思われます。さて、これがなぜ「不快感を抱かせるのか」については、恐らく説明がつきません。どこを見ても説明されていないので、ここに質問して下さったのだと思いますが、説明がつかないのです。
例えば「青」という色は、波長が短いために、目に飛び込んでくる頻度が大きい。従って、多く目にしているので「好ましい色」と感じる、といった説明がなされています。そこから考え得るのは、自然界には「自然倍音」(弦を弾いた時、管を吹いた時に必ず出る)が存在するので、我々は、長三度(例えばDo〜Mi)、完全五度(Do〜Sol)といった音程は、自然界で常に耳にしている。だから、「心地よい」。それに対して、この「トライトーン」は、自然界で耳にすることが少ない、だから「不快」である、ということになります。それはそれで説明にはなりますが、何の解決にも至りません。
周波数比が単純であればあるほど、響きが良い、とされています。1:2=オクターブの音程、2:3=完全5度(もっとも良い響きとされています)、15:16=半音、それに比して32:45=増4度(トライトーン)、45:64=減五度(こちらもトライトーン)。トライトーンが複数存在することの説明は、長くなりすぎるので省きますが、確かに周波数比が複雑になっていることが数字で見えます。しかし、それでも、感覚的に「不快である」説明にはなっていません。周波数比が複雑になると「うなりを生ずる」、これは聴いていて確かです。しかし「鐘の音」即ち教会の鐘、梵鐘などなど洋の東西を問わず、ほとんどが「うなり」を生じていて、そこが魅力であり、多くの人々が好んでいます。
周波数比が複雑になると、うなりを生ずるので、それが不快感をもたらす、というのでは、鐘の音を好むことの説明になっていません。
「ピタゴラスが音階を作った」と良く言われますが、これは、若干の誤謬が含まれています。というのも、数学は、森羅万象を説明する学問であって、森羅万象を創り出すものではないからです。絃の長さを1/2にすると、オクターブ上がる、絃の長さを2/3にすると、5度上がる(Doに対してSol)というのは自然現象で、人間が作ったものではありません。その現象を説明するのが数学で、ピタゴラスは、それを説明したのであって、その現象を創り出した人ではないわけです。
というわけで、数学的に説明はつきましたが、感覚的真理には至らない、というのが現在の結論です。