福島真人:自然科学における実験も、特定の実験がある状態を示しても、他の実験で再現できなければ、その信憑性は確立できません。ちょっと似てますが、歴史的資料も単にそれが孤立して存在しているわけではなく、複数の資料間のいわばネットワーク状構造になっていると考えれば、そのネットワークの中で特定の資料だけがあることを示し、他の資料に記述がないとすると、その信憑性に限界が出てきます。また他に関連した資料が出てこない場合は、研究者の間でその解釈について議論が分かれる可能性もあります。邪馬台国論争などがその例。また前にもちょっと指摘しましたが、「椿井文書」という体系的に偽造された文書では、郷土史家らもだいぶ騙されたようで、実際そういうリスクは常にあります。とはいえ、こうした資料についてのいわばメタデータ(つまり資料そのものの文脈情報)についての研究も蓄積されてきますから、どこまでは確実、どこからが解釈が分かれる、といった違いは少しずつ明らかになるはずです。