「5W1H」というように how のみが h- で始まっており、浮いている感じがしますね。実は語源的には how も wh- の仲間なのですが、発音と綴字のちょっとした変化によって、このように浮いてきてしまったという事情があります。

疑問詞はおおよそ wh- で始まりますね(例:what, when, whence, where, whether, which, whither, who, whom, whose, why)。いずれも印欧祖語の語根 *kwo-/*kwi- に遡り、これがゲルマン諸語で「グリムの法則」と呼ばれる音変化を経て、千年ほど前の古英語の段階までに /hw-/ ほどの発音(ハ行子音の後にワ行子音が続く)に至っていました。現代の what, when, where, who, why は、古英語では発音に忠実に hwæt, hwænne, hwǣr, hwā, hwȳ などと綴られていました。h と w の位置が現代と逆であることに注意してください。

現代の how についてはどうかというと、古英語では予想通り hwū のように hw- で綴られていました。しかし、この語には他の疑問詞と異なる特徴が1つありました。それは、hw- に続く母音が ū だったことです。互いに隣接する w と ū の2音は「円唇後舌高母音」と呼ばれるよく似た発音だったため、後者が前者を飲み込む形で hwū → hū と変化しました。「フゥー」が「フー」に単純化したのです(その後、現代までに母音がさらに変化し「ハウ」となっています)。

一方、発音の変化とは別に、興味深い綴字の変化が中英語期に生じました。古英語で hw- と綴られていた単語が、中英語期にフランス語の綴字習慣の間接的な影響を被り、wh- とひっくり返した綴字で書かれるようになったのです。ほぼすべての疑問詞の綴字が hw- から wh- にひっくり返されたのですが、上で見た古英語の hū だけは、ひっくり返すべき w が発音からも綴字からもすでに失われていたために、頭文字は h- のままに据え置かれました。これが中英語以降の how という綴字につながります。

本来、古英語の疑問詞はすべて hw- で始まっていたことを考えれば、歴史的な観点からは「5W1H」ではなく「6H」と呼ぶべきかもしれません。

なお、もう1つ質問をいただいていました。指示詞 that, there, then が th- 始まりなのに対して so が s- 始まりなのは、上記の疑問詞がたどった経緯と平行的なのか、という疑問ととらえられます。この共通点らしきものに私はこれまで気づかずに過ごしてきたので、素晴らしい着眼点だと感心しました。しかし、調べてみると(残念なことに)両者に平行性はないようです。印欧祖語まで遡ると th- 系列の指示詞は *to- という語根に、*so は s(w)e- という語根に遡り、互いに無関係のようです。

今回の疑問について、私の「hellog~英語史ブログ」より「#51. 「5W1H」ならぬ「6H」」 および「#4079. 疑問詞は「5W1H」といいますが、なぜ how だけ h で始まるのでしょうか? --- hellog ラジオ版」をご参照ください。

2024/02/11Posted
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