田口善弘@中央大学:まず、Aphafold2が解いた問題はたんぱく質の立体構造予測という問題で、20年来の難問でした。たんぱく質の立体構造を実験的に決めるのはお金も時間もかかる大変な作業な一方、アミノ酸の配列さえわかれば立体構造は予測できるという期待があり、2年一度世界中の専門家が技を競い合うコンファレンス(新しく構造がわかったたんぱく質の情報を敢えて伏せてあてっこする)が開催されていました。目的は「実験と同じレベルの予測精度」でしたが、これに見事成功したのがAlphaFold2です。なので分野的な観点からいうと何か新しいことを切り開いた、というわけではありません。
一方で、AlphaFold2を作ったのは長年研究していた人たちではなく、囲碁のプログラムを作って人間のチャンピオンを打ち負かして注目を浴びたアルファベット社であり、その意味では将棋ソフトで全くの門外漢が彗星のように現れて、機械学習を駆使して優勝をかっさらってしまったボナンザの登場を彷彿とさせるものがあります。
構造未知のたんぱく質の構造がかなりの精度で予測できるようになったことで、基礎研究から応用研究に至る広い分野で研究が劇的に進むであろうことを考えると、「切り開いた」という表現はあながち間違いでもないかもしれませんが。