勝見祐太 (Yuta Katsumi, PhD):私たちの脳には多感覚統合といって、五感から得られる情報を別々ではなくまとめて(関連づけて)処理することで身の回りで起こっていることをより正確に理解しようとする能力があります。また、脳は予測的処理といって、一部の情報を元にそれに関連する物事を過去の記憶と照らし合わせて予測することで効率的に機能するものと考えられています。
質問者様が経験されたエピソードでは、もしかしたら怪我をした直後は何が起こったかまだあまりわかっていなかったかもしれません。しかし、いざ傷を視覚的に認知することで、脳は視覚から得られた「傷」「血」といった情報をもとに過去に怪我をした記憶を瞬時に振り返り、「傷を作る、血が出る=痛い」といった関連性を思い出し、痛みの感覚をシミュレーションすることで、今現在具体的に何が起こっているのかをできるだけ早く認識しそれに対応していると考えられます。したがって、傷を見ると痛みが増すというのは脳が視覚と痛覚を統合し、より正確に今置かれている状況を理解して次に何をするべきか考えるというメカニズムが一つの理由だと解釈できると思います。