菅野 由弘:音楽のジャンルにもよりますが、基本的には、音楽を創り、演奏し、それを聴く事によって音楽が成立します。そして、「一人で音楽制作をする」ということは、例えば、作曲家と演奏家が同一である、というのが一番単純な図式という事になります。質問者がイメージしているのは、コンピュータを使うことによって、一人で全てをこなす事が出来、音楽を創る、というものだと思いますが、それは、作曲家と演奏家が同一であることに他ならないのだと思います。古典、現代に関わらず、クラシック、ポップスにもよらず、こうした例は昔から有りました。名演奏家が、名作曲家である場合です。その場合は、音楽がダイレクトにお客様に届く事になり「弊害」というようなことは有りません。ただし、音楽のもう一つの重要な側面、作曲家と演奏家の相互作用によって、より高い音楽性を得る、という意味では、マイナスであることは明らかです。「一人で音楽制作をした作品」でも、素晴らしいものは沢山有ると思います。が、複数、即ち、作曲家と多くの演奏家が関わって創った作品の方が、数段ないし数十段上のものだと思いますが、いかがでしょうか?もちろん、収益は分配しなければなりませんが、それ以上の価値が「複数の人間が関わった音楽」にはあり、人類の宝と呼べるような音楽は、一人では産むことが出来ない、と信じています。