ごく簡単に説明します。

いま仮に「1を0で割った結果はAという数に等しい」としましょう。実際にはそのようなルールにはなっていませんが、仮にそうだと仮定すると何が起こるかを考えようというのです。

「1を0で割った結果はAという数に等しい」を式で表すと、1÷0 = A のようになるでしょう。

1÷0とAは等しい数であると仮定しましたから、1÷0 = A の両辺に0という同じ数を掛けた結果も等しくなるはずです。式で表すと、(1÷0)×0 = A×0 になります。順番がわかりやすいように1÷0にカッコを付けました。

ところで、1をある数Bで割った結果の数に、同じ数Bを掛けた結果は1に等しくなるはずです(割って掛けたらもとに戻ってほしい)。ですから、(1÷0)×0は「1を0で割って、0を掛けた数」ですから、1に等しくなるはずです。

その一方で、どんな数でも0を掛ければ0に等しくなりますから、Aがどんな数であってもA×0は0に等しくなるはずです。

したがって、(1÷0)×0 = A×0 の左辺は1に等しくて、右辺は0に等しいことになります。

つまり「1を0で割った結果がAという数に等しい」というルールにしてしまうと、Aをどんな数に決めたとしても、(1÷0)×0 = A×0 は左辺が1で右辺が0になってしまうことになり、1 = 0 という結果になってしまいました。1が0に等しくなっては困ります。こうなったのは「1を0で割った結果はAという数に等しい」というルールを導入しようとしたからです。

以上が「0で割ることはできないルールにしている理由」になります。

 * * *

実のところ、次の三つの規則をすべて満たすような数のルールを作ることは論理的に不可能であることがわかります。

(ア)1を0で割った結果は数になる

(イ)どんな数に対しても0を掛けた結果は0に等しくなる

(ウ)1をある数Bで割った結果の数に、同じ数Bを掛けた結果は1に等しくなる(Bで割ってBを掛けたら元に戻る)

通常の数学では(ア)を断念して(イ)と(ウ)を守っていることになります。(ア)を満たすルールを導入した別の数学を考えることは可能ですが、そのときには(イ)または(ウ)の少なくともどちらかは断念することになります。

2y2yUpdate

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