橋本 省二:その質問、大好きです。超新星から飛んできたニュートリノが測られたと聞いたら、「それ何の役に立つの?」と思うより先に「その測定はどういう原理?」と思っちゃうあなたに共感します。やっぱりまず仕組みを知りたいですよね!
超新星爆発は、星が自重を支えられなくなってつぶれるときにできる衝撃波が原因だと考えられています。爆発のなかでは十分なエネルギーがあるのでニュートリノと反ニュートリノがいっぱい対生成したはずです。そこから地球まで届いたニュートリノも、ニュートリノと反ニュートリノが同じくらいあったはずですね。ではなぜ反ニュートリノだけが測定されたのか。そこが問題です。
まず、カミオカンデで測定しているのはニュートリノではなく、電子や陽電子です。ニュートリノが水のなかの原子を叩いて出てきた電子や陽電子が水の中を走る。そいつがチェレンコフ光を出して観測されるわけです。ですから問題は、ニュートリノと反ニュートリノのどちらが原子に当たりやすいか、ということになりますね。まず原子のなかにいる電子に当たる確率は、ニュートリノと反ニュートリノで大きな違いはありません。ただし、これらはいずれも小さいんです。主に効くのはむしろ陽子との反応。反ニュートリノが陽子にぶつかって、中性子と陽電子を出す(逆ベータ崩壊と呼ばれます)。この陽電子が走ってチェレンコフ光を発するわけです。ニュートリノのほうはこの反応を起こせないので単にすりぬけてしまって観測されないんですね。
ではなぜ電子よりも陽子のほうがニュートリノに当たりやすいのか。これは弱い相互作用の性質によります。重い粒子(Wボソン)によって媒介される相互作用は、それにかかわる粒子のエネルギーが大きいほうが大きくなります。陽子は電子よりもずっと重い、つまりエネルギーが大きいのでお得なんです。
小さな疑問に思えることでも、その背後にはいろんなおもしろい問題が隠れてるんですね。小さな疑問からどんどん深みにはまってみてください。楽しいですよ。