高橋賢:質問者が「研究開発費」と「開発費」を厳密に区分しているという前提でお話しします。 会計上の取り扱いは,「研究開発費」は発生時に費用として計上されます。一方,「開発費」の場合は原則として発生時に販売費および一般管理費として費用計上しますが,繰延資産として資産計上し償却していくという方法も選択できます。質問者は後者の処理のことを質問しているのだと思います。「開発費」は,新技術または新経営組織の採用や資源の開発など,業務上新しく何かを始めるために支出した費用で,「研究開発費」と比較すると将来の収益への貢献の予見性が高いといえます。そのため,資産計上して償却するという選択肢もあるわけです。 「研究開発費」については,質問者の仰る通りで,会計上も発生時に費用化することになっています。(Read more)
積惟美:「研究開発費」と「開発費」が異なるという点は他の先生がおっしゃる通りです。そのため、後半の日本にとって良いことなのかという点について回答いたします。繰延資産として資産計上できる「開発費」は、具体的にいうと技術導入費、経営コンサルタント料、特許権使用のための頭金、市場調査費などであり、「研究開発費」と比べて自社開発の研究・技術ではないため、技術革新の中で競争優位を構築するという側面においてはそれほど重要ではないと考えられます。また、現状、貸借対照表上の計上額も非常に少ないです。 ここまでは「開発費」についてですが、実は「研究開発費」の資産計上については会計研究上結構議論になっていたりします。日本基準においては「研究開発費」は一括費用処理なのですが、国際基準であるIFRSにおいては、「研究開発費」を研究費と開発費に分けた上で(ややこしいですが)、開発費については一定の要件を満たすならば資産計上しても良いことになっています。 では、研究開発費を資産計上した方が経済的に良いのかどうかと言う点ですが(おそらくご質問の意図としてはこちらが重要だったのではないかと思います)、結構難しい問題です。確定決算主義のもと、費用処理した研究開発費がそのまま損金処理されるならば、企業としてはその(時間的な)節税効果があった方が良いため、一時の費用にしてしまった方が研究開発が進むと思います。しかし一方で、資産計上した方が研究開発が進むと言う考え方もあります。その理由としては、研究開発費を一時の費用とした場合、その分だけ利益が下がります。したがって、利益の低下(もしくは損失の計上)による投資家の負の反応を避けたい経営者は、多額の研究開発投資を行うことが難しくなります。そのため、資産計上し、それを期間償却することによって研究開発が促進される可能性も考えられます(たしか、欧州で開発費の資産計上の基準を導入した結果、イノベーションが加速したという研究論文があったように思います。論文名を失念してしまいましたが、思い出したら後で編集で追加しておきます)。 したがって、「研究開発費」を資産計上することが経済的に良いことかどうかは難しいですね。おそらく、会計上は(一定の要件を満たしたものは)資産計上し、課税所得計算上は損金処理するという制度が最も企業の研究開発を促進するのではないかと思います。(Read more)