学生経営のNEXT:「なんで,12月のことを師走っていうの.」と綾ちゃんは夢の国であるネズミーランドでジェットコースターの並び時間中に聞いてきた.「僧侶のような普段落ちついている人でも、この月は忙しくて走っちゃうからだ」ってこの前テレビで言ってたなあと思いながら話した.綾ちゃんは「ふーん,そーなんだ」とあまり興味なさそうだったので,これ以上のこの会話は続かなかった.前のカップルが楽しそうにミッチーとの写真でキャッキャと話している姿が眩しく,この待ち時間が長く長く感じた.沈黙が嫌で俺は魔法瓶に入れたお茶を飲んだ.今朝入れた物だったが,まだまだ暖かく,水蒸気がほわほわと舞い,俺の眼鏡を曇らせた.綾ちゃんはそれを見て,ふふと笑っていた.「そーいえばさー,魔法瓶ってなんで魔法,瓶なの」と綾ちゃんは隠れミッチーを探しながら,聞いてきた.こ綾ちゃんから見ると俺は同じインカレサークルに所属する理系男子の一人と認識されているためか,なんでも知っているんでしょといった感じで聞いてくる.なので,,出まかせを言うことにした.ミッチーの生みの親であるネズミーが考案したからだよと言った.同級生に言うと笑われそうだが,綾ちゃんはへえーというだけで疑うこともなく信じてくれた.「私の卒論でミッチーのことでも書こうかな」と隠れミッキーを見つけ,少し上機嫌で答えた.そこから何を話したかは忘れたが,沈黙することなく,ジェットコースターに乗れた.
ジェットコースターを待っている間は室内だったため,もう日が完全に落ちていて,ナイトパレードが始まろうとしていたことに驚いた.キャストがもうすぐ始まりまーすと言いながら,人流をコントロールしていた.「やっぱり,ネズミーランドはナイトパレードだよね」と綾ちゃんはマスク越しでも分かるぐらいの笑顔で話した.その笑顔は綾ちゃんが好きだということを再認識させてくれた.「実は,ナイトパレードの特等席があるだけどいかない.」というとすぐにいくいく!とまるで女子高生がインスタを返すスピードぐらい早かった.お昼よりも親子連れが減り,歩きやすくなった道を歩きながら,特等席を目指した.そこはジンデレラ城である.日中は写真を撮る人で多くの人がいるが,夜はパレードを見る人が下に降りるため,あまり人はいなくなるため,パレードを上から見れる絶好の場所なのだ.「すっごーい」と綾ちゃんは言って,今日一番のはしゃぎぶりだった.この場所で一緒にパレードを観て,言うんだと自分を奮い立たせ,綾ちゃんに告白した.
ネズミーランドを後にし,東京駅で解散した.人生で初めての彼女が出来たことがうれしく,SNSにこの事実を上げたい衝動を抑えていた.東京駅までの電車はネズミーランド帰りの人々でいっぱいだったが,乗り換えを行ってからは疲れ切ったサラリーマンや暇そうなおじいさんがいて,現実に戻された気がした.やっと,席が空いて,腰を下ろし,スマホをみてしまった.綾ちゃんから「ごめん!さっきは勢いでOKしちゃったけど,やっぱりなしで!」と連絡がきていた.俺は何が起きたかわからず,魔法瓶を開け,すっかりと冷めていた.お茶を飲んだ.どうやら,ネズミーランドを出た時点で魔法は解けていたみたいだ.