生まれたばかりの子鹿はすぐに立ち上がり、歩くようになります。母親は見守るだけで歩き方を教えるわけではありません。人間の赤ちゃんも生後すぐに呼吸を始め、母親の乳を吸います。このように教えられなくても最初から神経系に刷り込まれた行動パターンを生得的行動と呼びます。動物の繁殖に際しては異性を探してアプローチし、音や装飾で誘惑し、相手が受け入れ可能であれば交尾に進みます。これらの手順のほとんどは生得的に決まっています。蝉などの多くの昆虫では子孫が生まれた時点で親世代は死滅しています。親の姿を見たこともない子の世代がちゃんと繁殖出来るように性行動パターンはプログラム化されてゲノムに書き込まれています。

 人間でも思春期には異性に対してドキドキするように生得的な性行動は残っていると考えられます。しかし一方で人間社会では他の動物に比べて社会的に蓄積された知識の割合が大きくなっています。人間は脳とゲノムで記録しうる以上の情報を社会の中で口述、筆記などの形で保存し、共有する事で脳の容量をはるかに超える知識の獲得に成功しました。コンピューターとインターネットの発達は知識のデータベースの発展を急激に加速しています。

 恋愛は人間社会の知識データベースにおいて、文学、画像、動画などの形で大量に保存され、人々の行動に影響しています。現代社会では社会から教えられる性の情報が大きいですが、もしも地球で文明が失われたとしても生得的行動は残り、種の保存を支えることでしょう。

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