横田有為:他の方が、単結晶の育成における品質低下の要因を解説されているので、私は結晶解析測定を行う試料の状態に関して補足します。
単結晶育成において非常に高品質な単結晶が作製できたとしても、結晶解析用の試料を作製する過程や評価する過程で品質低下につながる要因が起こる場合があります。
1つが結晶内部のクラック(ひび・割れ)です。単結晶は単一の粒で構成されている物質で、方位が揃っているため、結晶構造によってはある特定の方位に割れやすい性質を持つことがあります。特に元素同士の結合が弱い部分でそのクラックが生じやすく、クラックの発生は、単結晶育成時だけではなく、冷却時、育成後の結晶に衝撃を与えた時など様々な状況で起こります。電荷の偏りで変形が生じるような圧電材料の単結晶では、素手で触れた際の静電気だけで割れることがあります。
もしそのクラックが内部に入った試料で、X線による構造解析を行った場合、クラック部分で他の部分(クラックがない部分)とは異なるX線の回折が生じてしまい、得られるデータの品質を低下させる要因となってしまいます。
単結晶の外周部に付着した不純物も結晶解析の品質を低下させる1つの要因です。評価用の試料を作製するために、ロウなどの接着材料を使用して、単結晶の切断・加工を行いますが、その際に使用した接着材料が多少でも外周部に付着した状態で評価を行ってしまうと、その部分で異なる反射や吸収が生じてしまい、結晶解析の評価において結果の品質低下を引き起こします。
材料によっては大気中の水分と比較的短時間で反応して品質が変化するものがあります。その場合は、液体窒素を吹き付けながら結晶解析を行うなどの対策を行わないと、測定中に徐々に材料の状態が変化することになります。その結果、最終的に得られる結晶解析のデータが前半と後半で異なる状態の材料から得られたものになり、評価結果の品質が低下してしまいます。