鵜山太智:リュウグウのサンプル調査、詳細な特徴についてはプレスリリースや解説記事がいくつかGoogle検索でも出ているので、そちらをご確認いただければと思いますが、その背景について説明しておこうと思います。
まず星・惑星形成の観点、つまり太陽系がどのようにできたかが議論の的です。非常に大まかに言うと、星が生まれる前は分子雲というものが広がっていてそこから重力的に収縮したものが星となり、その際に星の近くにあったガスやダストが円盤を形成します。この円盤内において合体集積を繰り返すことで惑星ができていき、また惑星に合体しなかった名残が小惑星として残っています。ただこの惑星形成過程において、どのような物質が物理・化学的にどう相互作用したのか、それがどのように惑星形成に繋がったのかは完全には理解できていません。
そこで隕石が注目されていました。太陽系に存在する太陽、それぞれの惑星、小惑星などはほぼ同じ年齢と考えられています。とは言っても太陽は常に核融合を起こしていて形成直後の情報は消えていますし、地球も地殻変動などで形成時の情報は簡単には取り出せません。一方で、小惑星などは惑星や太陽に取り込まれなかったため、太陽系形成時の情報が残っていると考えられていました。それが偶然地球に隕石として落ちてくれれば、そこに含まれる放射性同位体の半減期を利用して、隕石の年齢->太陽(系)の年齢->地球の年齢が推測できます。さらに隕石の鉱物などが現在の地球の組成と異なっていれば、それは惑星形成時の情報ということになります。
そのため、地球に飛来してくる隕石や地球自身を科学のターゲットとしつつ、宇宙空間を観測して典型的な分子雲の物質を元に太陽系ができる前はどんな物質があったのかを理論予測することで太陽系がどのように形成されたか議論されてきました。とはいえ隕石は地球大気や地球上の物質に汚染されている可能性があり、やはり百聞は一見に如かず、宇宙空間にあるものを捉えるのが最も手っ取り早くこの議論を進められるのです。
近年になってようやく、はやぶさやNASAのOSIRIS-RExといったサンプルリターンを目的とした探査機が技術的に運用できるようになり、実際に宇宙空間にある物質を地球の汚染という不確かなファクターを気にせず調査できるようになったのです。実際に地球による汚染が判明した特徴もありましたし、また、そもそも「小惑星が太陽系形成時の情報を持っている」という仮定をきちんと実証できるようになったのもサンプルリターンによる大きな成果です。