林 茂生:何通りにも意図が考えられる質問ですね〜。自分が生まれ変わっても研究者になっているかどうかはわかりません。私がいま研究をしているのは科学が好きで、科学を研究することの選択が様々な幸運に恵まれて辞めるという選択を取らずに今まで来ていたからです。人生双六のサイコロの目がたまたま揃っていまここにいるだけです。もう一度スタート点に戻っても多分違う目が出て別の道に向かっていた可能性が高いと思います。職業の適性はやってみなくてはわからないので最初から一つに絞った目標を目指すのではなく、セカンドチョイスを用意しておいた方が集中しやすいと思います。私のセカンドチョイスは「なんとかなるだろう」でしたが。 「日本に生まれたいですか?」という質問には答えようがありません。しかし日本に生まれて、日本で研究の場を持ったことは私にとって幸運だったと思います。私は日本で教育を受けて、海外でポスドクをして、日本に帰ってきました。帰国した頃は日本に帰ってきた果たして良かったのだろうかと自問することはありました。当時(1990ごろ)は欧米から情報が隔絶した感があり、アメリカの同僚や友人が知っていることを自分は何も知らないことに焦る気もありました。しかし情報を追い回すことは先人の真似をすることに繋がります。むしろ知らずに自分だけで考えてアイデアを固めることで、結果として自分独自の研究の道を発見することができたと思います。 SNSをみると日本の研究の現状を憂いて嘆く声はやたらと多く、日本は研究者にとってヤバイところじゃないかと考える若い人がいてもおかしくはありません。しかしそんなことはないと思います。制度の欠点や、政治と科学者の間の溝など問題点はいろいろあります。しかし日本の研究者は決められた方針にそっぽを向いて好きなことだけを追求して、独自性を尊重する傾向が欧米に比べて大きく、私はこれはとても良いことだと思っています。(Read more)
元祐 昌廣 (Masahiro Motosuke):考えるには面白い質問ですね. 色々な国にそれぞれの事情があるので,自分がどの国に生まれたら一番か,というのは単純には答えるのが難しいです. プラクティカルな側面から見ると,論文を読んだりする際や国際会議で発表するために英語の練習をする必要があったので,英語が母国語の国に生まれると色々と楽だなーとは思います.研究で必要な情報を得たり発信する際に母国語を使うことができるメリットは非常に大きいです.ただし,英語圏の国で研究者として生き残るのは全般的には日本よりも相当大変なことでより競争的なので,その場合,自分が研究者になってないかもしれませんが... 個人的には日本という国が色々な面からとても好きなので,人としては日本に生まれたいです.(Read more)
鵜山太智:世界における日本の研究という側面と日本で生まれるという生活・教育・政治的な側面、色々と考えられさせる質問ですね。こういう考え方はしたことがなかったのでつらつらと思いつく限りの事を個人的な経験を加味した上で挙げていきます。また今のご時世的に日本で生まれる=日本国籍ということにはならないと思うんですが、揚げ足を取るつもりもないので日本国籍として考えておきます。 まず僕のバックグラウンドとしては、日本で生まれ博士号取得まではずっと日本で育ってきました。博士取得後にアメリカへ移り現在もアメリカで研究を進めています。 その中で思うところとしては ・そもそも(基礎)研究を行うことができる国は全世界で見れば経済的にも治安的にも安定しているところです。その点では日本で生まれ育ったというのは非常に運が良かったと思います。世界中の国と比較したら日本が研究者を目指す上で一番かどうかはわかりませんが、日本を選べるなら僕は日本を選びます。願わくば将来ずっとこのような国であってほしいところです。 ・他の国で働くと言う点において日本国籍というのは制限が非常に少ないと思います。アメリカの研究機関、特に国に関わるところは一定の国・地域の国籍を持つ人はいくら研究していても敷地内に入ることすらできなかったりします。日本でも最近そういった話を聞き始めますね。 ・(財政的なところは一旦置いておいて)日本は教育、特に博士取得までの道のりがかなり整備されています。 ・日本(語)だけで研究が完結する領域でない限りは、他の言語習得が必須になります。現状の日本ではただ授業を受け生活しているだけで勝手に習得できるものではないでしょう。自分の分野はほとんど英語ベースなのでそれで考えると、英語を学ぶという点で英語ネイティブに比べて研究者となるまでにすべきタスクが一つ多くなります。ただ一方で複数言語を強制的に使う機会があるというのは実質的に個人が国際的な人間として成長する機会にもなるので、将来の選択肢が増えるので有利とも考えられます。 最後に、上記の個人的意見は日本で生まれ育つというところですが、育った後日本でずっと研究者として生きていくかどうかについては、正直にいうと分野によります。やりたいようにできるのが研究、と言っても現実的には予算など様々な制限がついてきます。もちろんどの国にもあることかと思いますが、日本は昨今の選択と集中によって予算に余裕があり、安定して研究できるポジションの新陳代謝が活発な分野は非常に限られてきています。生活だけ見れば慣れ親しんだ日本が当然良いのですが、研究者として生きていくのは中々に難しくなっていると思っています。 一昔前の日本に生まれ変わって日本でずっと研究者をやるというのは楽しいかもしれませんが、今後の時代に研究者として生き残る道を探すとなると、日本以外にも活路を見出さざるを得ません。(Read more)
Ken_SATO:実は,質問は微妙なところが有り,英米で生まれていれば,言語の障壁は有りません(極めて小さいです).その意味では,研究者としては海外(英米)に生まれていたかった,というのが私の実感です.これは別に日本が嫌いな訳ではなく,あくまで研究環境のことを言っています. 私位の年次ですと語学の障壁はそれなりに有ります.何せ,大学を出るまでに英会話などを意識して勉強したことは有りませんでしたから.また,日本で生活し,研究に従事した段階では海外との環境の差異は余り理解していませんでした.国際会議に出席/発表したり,(国際)学会で各種の運営に携わったり,標準化で議論を交わしたり,短期間外国の機関に所属したり,そうした中で多くの外国人と交流する中で,日本の研究者と外国の研究者の環境の差が見えてきます. 欧米の(大学の)研究室は人種構成も多様で,発想のdiversityも大きいです.議論していてもワクワクすることが多い.研究者の待遇(金銭面だけでなく,研究により集中できる環境)も良いし.大学ではtenureを取れば,年齢に関係なく(成果をあげていれば)研究を続けられます.日本とは大きく違います.勿論良い事ばかりでは無く,研究費の獲得(大学院生/ポスドクへの給与を含め)並びにtenure を取るまでは極めてシビアな競争が有ります.聞いた話ですが,大学でtenure を取るために,週末も研究に専念して何年も研究に没頭していた先生が,運悪くその大学ではtenure は取れず,他大学に移り,そこでは,休みの日には大学の理事会メンバとゴルフに明け暮れていたら,暫くしてtenure が取れた,と言う話もありますが. 私の先輩で30代後半でアメリカの大学に留学した人が,研究室の仲間に,「自分は英語が不得意で...」と言い訳したら,周りの留学生に呆れられた,と言っていました.それは,外国からアメリカに留学して将来(研究で)成功する上で,語学で弱音を吐く位なら,なんで留学したんだ,と言った意識だと思います.そんな事を乗り越えられないなら,留学するな,と言うことです.英米で生まれていれば,その障壁は有りません.また,現在はその障壁も大分小さいし,将来研究を仕事として選ぶなら,海外はずっと魅力的です.(Read more)
山中 大学 (Manabu D. Yamanaka):はい,勿論そうです.研究者になる前に人間として一人前になること,今の私のような地球環境関係の研究を再び目指す(今の人生が時間切れになりそうなので本気でそう思います)ことを考えると,色々問題はあっても日本の自然,日本の文化,日本語の素晴らしさに勝る研究環境の国は他にありません.(Read more)