川原繁人:このような省略形は、言語学者にとって大好物で、多くの研究がなされています。まず、省略形を使うことに眉をひそめる人もいますが、言語学者にとっては非常に興味深い観察で、私自身新たな省略形が出てくると嬉しく思います。省略形はさまざまな言語で起こりますが、英語などでは、1音節に縮められることが知られていました。
professor => prof
logarithm => log
mathematics => math
Elizabeth => Beth
では日本語ではどうかというと、「2拍」が基本単位になっているのではないかと言われています。「はず-い」や「なつ-い」は「2拍」に縮めたものに「-い」がついていますね。
では「めんど-い」はなぜ「めん-い」にならないのかという問題ですが、ひとつの可能性は「んい」という連鎖が嫌われているということ。「天皇」は漢字から考えると「てんおう」ですが、「てんのう」になりました。このように「ん+母音」は嫌われる傾向にあります。もうひとつの可能性は「1音節だと短すぎる」という可能性です。「めん」というのはひとつの音節にまとまることがわかっていて、省略形は1音節にはなりません。「ロケーション」は「ロケ」に縮まるのに、「パンフレット」が「パンフ」に縮まって「パン」にならなのはこの理由です。
さてこんな法則が見えてくる省略語ですが、ご指摘の通り、生き残るものとそうでないものがありそうです。その違いはなんなのか……は私の専門外です、すみません。社会学的な観点からも分析が必要になると思います。「タピる」などは生き残るんでしょうかね? 「なうい」などは一度死に絶えてまた復活した、という話も聞きます。興味深いトピックですよね。