十文字青:僕は幼い頃から会社のような組織に所属し、その構成員として働くというのは自分に向かないだろうと思っていました。ですから、就職を考えたことは一度もありません。生きてゆくためにお金が必要なので、アルバイトをしたり、その延長で派遣会社に登録し、派遣社員としてシステムエンジニアの仕事をしたことはあります。しかし、あくまでも生活費を稼ぐためで、新人賞を受賞したらそうしたことからは一切手を引くつもりでした。実際、そうしました。
べつに小説でなくともよかったのです。初めは音楽で食えないかと考えていました。大学生になって程なく、路上でギターを弾きながら歌うことを始め(大学には通わず)、それなりに稼いでいましたし、ローカル局の番組で取り上げられたり、イベントに出て少額ですがギャラをもらったりもしましたが、限界を感じました。僕の自作曲はなんだかへんてこでしたし、自分の声がどうしても気に入らなかったのです。何かもっといい具合になるはずなのに、どうしてもそうなってくれません。今にして思えば、僕は仲間を見つけて色々と影響を受けながら音楽に取り組むべきだったのかもしれません。当時の僕にはとうてい無理でしたが。
僕は音楽をすっかり諦めることにして、次に何をしようと考えるまでもなく、小説を書きはじめました。そのときから、いずれは小説で食べてゆくつもりでした。そうでもなければ、小説を書くことはなかったと思います。つまり、僕は職探しの一環として小説を書きはじめたのです。
なぜ小説だったのか。身も蓋もない言い方ですが、小説なら書けそうだと思ったのです。音楽は向いていない、自分には才能がない、センスもないと判断しました。小説ならどうもいけそうだと僕は感じたのです。
受賞までずいぶんかかりましたし、よくも途中で投げださなかったものです。とはいえ、曲がりなりにも生計を立てることができているので、僕の見通しは間違っていなかったようです。
好きな作家というと、手塚治虫さんの漫画をかなり読みました。エドワード・ケアリーの小説が好きです。エドワード繋がりというわけではありませんが、エドワード・ゴーリーの絵本をよく読みます。