ikeken:ポール・F・ラザスフェルドです。
あまりなじみがない?
いまインターネット利用の中でホットな話題になっている選択的接触と社会の分断の問題、マスメディアの「限定効果」を生み出す集団やソーシャルネットワーク、あるいはオピニオンリーダー(インフルエンサーでもよいですけど)の持つ意味、アメリカ大統領選挙の定期的な大規模調査研究、世論調査のパネルデータの調査法(同一人物に対する継続調査)やスノーボールサンプリング調査法(調査対象者の周囲他者への調査の拡大)といったものを生み出し、起点となったのが、この人です。日本ではこの人の偉大さはよく理解されていないと思います。
ナチスドイツに追われるような形でウィーンから渡米してきて、コロンビア大を中心に一連の実証研究を重ね、大統領選挙ではきっとメディアの効果が絶大に違いない、という認知バイアスを打ち砕いたのは彼です。その後10年で『パーソナルインフルエンス』という金字塔を打ち立てました。どんな理論的視点の進展も、革新的な観測から始まるのだ、という見本です。頭でっかちをたたきつぶせ、ですね。『社会理論と社会構造』や科学社会学の祖として知られるロバート・マートンとの同志関係についてもよく知られていないと思いますが、理論と実証の間柄の生き生きとした関係が生み出された時代でした。
個人的には、2011年にプラハで開催された世界世論調査協会のラザスフェルド生誕110周年記念シンポジウムで研究発表したのはとてもよい思い出です。もちろんご本人と話はできませんでしたが、世界に散らばるお弟子さん筋と話が出来たのは幸いでした。
研究者に憧れるというのは、あまりなじまず、この研究者と仕事を一緒にしてみたい、という表現のほうがしっくり来るかもしれません。