福島真人:一般的にリスク管理についてよく言われることですが、リスクの初期段階というのはそれが本当に危険性があるかどうかわからないということが多く、それがはっきりする後半になると、リスクが大きくなりすぎてコントロールできないという矛盾・相克があるという話です。それゆえ、対処法としては、まだ内容があいまいなうちに見切り発車して介入するか、それとも少しまって様子を見て慌てるか、というパターンになりがちです。
EU諸国はこうした初期段階のリスクに対し敏感で、その科学的実体が必ずしも明確でなくても、予防原則(precaution
principle)にのっとって早期に対応するという姿勢をとる傾向が強い。環境問題が典型ですが、米国の様にその対応に関して国論が二分したり、日本のようにとにかく様子見が先、というのとは基本姿勢がやや異なります。またテクノロジー開発に関しても、責任あるイノベーションという言葉が科学政策の基本姿勢になっており、Responsible
Innovationという名の雑誌もあって、知り合いが編集にかかわってます。
今回の生成的AIについては、すでに多方面からその内容・影響についての懸念が噴出しており、著作権、労働問題、更に人権等に関して深刻な脅威になるという指摘も多く出ています。以上のような理由から、EU諸国が厳しく反応しても不思議はない。またそうした形で世界的な規制に関して、EUスタンダードを確立するという野心もあるでしょう。
日本では、例えば著作権の保護一つとってもかなり緩く、本当に保護しているのかという指摘もあります。日本の場合は、大体いつもバスに乗り遅れるな、という状況になってやっと動きだすので、あとになって慌てるというパターンではないでしょうか。