横田有為:こちらの質問に現役の科学者として回答させて頂きます。
チョコレートの性質は科学的に大変興味深く、御指摘の記事以外にも国内外の様々な科学者が、その解明や改善に向けた研究を行っています。その中で科学の力で新たに分かったことが数多くありますが、それはチョコレートの基本的な性質(結晶化、析出、融解など)を科学的に解明したり改善したりしたものです。
一方で、チョコレートが「おいしい」というのは、人間の感覚によるものです。人間は、様々なセンサーの塊であり、食べ物であれば、口内の数多くのセンサーからの信号を組み合わせた結果が、そのおいしさ(まずさ)の結果をもたらします。
さらに食べ物によっては、食べた人が異なるとその味の評価が変わったり、同じチョコレートでもおいしさの優劣があったりと、現在の科学では解明できていない「味の構成要素」や「人間の味に対する応答」などが必ずあります。
例えば、ロボットアームが様々な分野で利用されてきていますが、その多くが単一目的のロボットであり、人間が普通に行っている様々な動作が可能なロボットを作るには、数多くのセンサー(温度・圧力・加速度など)をロボット内のあらゆる箇所に張り巡らせなければならず、そのようなものは現在の科学では実現できません。
同様に人間の味覚のような奇跡のセンサーを科学的に解明し、自由に食べもののおいしさを制御するには、まだまだ遥かな技術革新が必要だと思います。したがって、人間が持つ奇跡のセンサーを駆使しながら、レストランやホテルのシェフの方々が日々素晴らしい料理を生み出しているのは、科学者として人間の可能性を大きく感じさせる一つの側面だと思います。