横田有為:他の方が「量産化」と「経済性」の点で回答されていますので、私は別の視点から解説したいと思います。
例えば、従来材料を全ての性能の点で大きく凌駕するような最先端材料が発見された場合は、世界中の研究者や企業が「量産化」や「経済性」を解決する研究開発を行うために、一般的な利用までのハードルはそこまで高くありません。
(LEDやIPS細胞などのノーベル賞に相当するような材料です。)
しかし、そのような最先端材料というのはなかなか発見されません。というのも、現在使用されている既存材料も、これまで世界中の研究者や企業が開発を重ねて、ようやく実用化し、その後の改良を重ねたものがほとんどだからです。既存材料も多くの実用化に至らなかった材料の上に成り立っています。
したがって、最先端材料の多くは既存材料と比べて全ての性能が凌駕しているわけではなく、ある特定の(もしくは複数の)性能において既存材料と比べて優れていることが多いです。例えば、半導体結晶でも酸化ガリウムという次世代の最先端材料が、世界的にも注目されて開発が進められていますが、既存材料のシリコン結晶と比べると、パワーデバイスの性能を示す指標である「バリガ性能特性」は大きく上回っていますが、熱伝導率の点では劣っています。したがって、酸化ガリウムを実装する場合は、その熱伝導率を低減させる方法を新たに開発するか、デバイス化した際の発熱をうまく排出する構造を新たに設ける必要が出てきます。このような既存材料では問題としていなかった新たな開発要素が、各最先端材料の一般利用へのハードルとなっています。
それから、多くの材料は単体で用いられることは少なく、多くの周辺技術との集合体として利用されます。例えば、放射線の計測に用いられるシンチレータ結晶は、出てきた光を電気信号に変換して計測するための後段の回路が存在します。その回路は、既存材料に合わせて開発されているので、材料を最先端材料に交換しただけではうまく動作せず、新たに最先端材料に合わせた回路の設計・開発が必要になります。その開発を実施するには新たな費用と時間が必要になってきますので、そのような周辺技術の開発要素も一般利用へのハードルです。