田口善弘@中央大学:仮にある物質がある性質を持っているとわかっても、一般に利用されるまでには大きく言って2つの関門があります。
量産化の壁
単に「ある物質がある性質を持っている」と示す「だけ」なら、その物質が安定して作られなくても構いません。100回試して一回しか成功しなくても構わないわけです。ですが、一般で使われるには量産化がされないといけないわけです。極端な話、物質合成の実験方法の中にはまぐれ当たりを最初っからあてにしている場合もあり、その場合など、そもそも、どうやって作るか方法がちゃんとわかってない場合も多いです。そこでまず「ある手続きを取ったら必ずある物質ができる」という手続きを確立する必要があります。まず第一にその方法が難しいです。
次に、仮にそういう方法が確立したとしても実験を開始してから終わるまでに1年かかるような方法では全然だめなわけです。量産化するには、リーズナブルな時間でできないといけませんし、また、100gの物質から始めて1gの製品しかできないようでは困るわけですよね。そういう意味でただ物質がつくれればいいわけじゃなく、安定して量産化できるプロセスが発見できなくてはいけませんし、往々にしてそれは「ある物質がある性質を持っている」ことを発見するのとは全く異質な困難があるわけです。
経済性の壁
仮に量産化に成功しても、材料の物質が高価で、既存の製品の何倍も高額な場合は誰も買ってくれません。例えば、2倍の性能がでるけど価格も2倍、ということならなかなか買ってもらえないわけです。全く新しい性能ならそれでもいいんじゃないか、と思うかもしれませんが、どんなことでも性能が悪いなりになんらかの方法で実現できているわけです。例えば、コンピュータは昔は真空管でできていましたが、それが今は半導体で置き換えられています。それは、半導体で作った方が故障が少なく、安価で、かつ小型でできるからです。故障が少なければ交換する頻度が少なくてお金が節約できますし、小型だということは十分に経済性に貢献します。
以上の様な2つの壁を乗り越えて初めて最先端材料は一般に使われるようになります。