菊澤研宗:すべての人間は完全合理的ではなく、限定合理的で、機会主義的（スキあらば）だからです。 　いま多くの国が自国の通貨を持っているとします。ここで、共通の通貨を導入するために、多くの国同士で、交渉・取引する必要があります。 　ここでは、人間は不完全なので、ある国は相手の国の不備に付け込んでくるかもしれません。ある国は騙されるかもしれせん。他方、別の国は不備に付け込まれないように、あるい騙されないように用心します。それゆえ、世界の国々の意見が一致に至るには、ものすごい無駄な駆け引きが発生します。この無駄な駆け引き、無駄な時間などを「取引コスト」といいます。 　　共通の通貨を導入するには、この取引コストがあまりにも高いので、世界共通の通貨を導入することは難しいのだと思います。同じことが、核爆弾禁止条約などにもいえると思います。つまり、合理的に非効率な状態を選択しているのです。 　　　これを私は「不条理」と呼んでいます。

小田部正明 (Masaaki Kotabe):Eurozoneがなぜ可能になったのかを考えてみてください。理論的には、同通貨圏にが可能になるためには、国々の経済成長率、政府の財政政策、中央銀行の金利政策が基本的に一定していることが必要条件です。つまり、Eurozoneができる前に、フランス、ドイツ、オランダ、スペイン、ベルギー等々の国々のマクロ経済が同調して発展していくことによって、その国々の貨幣の為替率に変化が少なかったからこそ、同じ通貨（Euro）に変えても問題がなかったわけです。つまり、フランスが発行したEuroもドイツが発行したEuroも同じ貨幣価値が維持できたわけです。例えば、フランスが高いインフレに見舞われたとすると、フランスのEuroの貨幣価値がインフレで目減りし、ドイツがインフレなしで経済を運営していたとしましょう。フランス人は自国のEuroの価値が国内で購買力を失っているので、フランスのEuroをドイツで使うことによってフランス国内より多くのものをドイツで買えることになります。フランスのEuroもドイツのEuroも、Euroはどこで使おうが同じ価値のEuroです。つまり、フランス人はEuroを使ってドイツからの輸入が増加し、逆にドイツ人はフランス国内のモノのEuroの値段が高いのでフランスからの輸入（つまりフランスからドイツへの輸出）は減少します。結果として、フランスの対ドイツの貿易収支は輸入過多で赤字なっていきます。貿易赤字はドイツやそのほかの国から、お金を借りて払わなければならず、このフランスの貿易赤字が永久に続けることは不可能です。もっと簡単に説明すれば、私たちが多数のクレジットカードを使い、自分の所得よりもはるかに多くの消費をし続けると、終いには借金が返せない状態になり倒産してしまいます。国レベルでも基本的な話は同じです。現実にはいろいろな財政状態の国があるばかりでなく経済発展の段階にも多くの差があるので、多くの国が同じ貨幣を導入し貨幣価値を一定に維持していくことは困難です。