川原繁人:大学院のゼミでじっくり議論したことがある問題です。特に自分が執筆中でほぼ出来上がった論文と内容が似ている研究が先に発表・出版されてしまったらどうなるでしょう? 諦めるべきでしょうか? それとも出版の道を探るべきでしょうか? たいへん難しい問題ですが、アドバイザーにGreat
minds think
alikeという言葉を頂きました。当時は、「他の偉大な研究者も似たようなことを思いついたんだから、誇りに思いなさい」程度に受け取りました。
ただ、現在では、複数の研究者が似たような理論や分析を発表するのは、必ずしもおかしいことではないと思っています。同じ実験結果が複数の研究チームで確認されること(=replicateされること)の重要性が認識されてきたからです。ですから、公明正大に「XXの研究で似たような成果が出ているが、研究計画段階では、XXの存在は知らなかった。XXの研究と私の研究が同じような結果が出ているということは、この結果の信頼性にもつながる」と宣言してしまうのもありだと思います。別々の研究者が独立して同じ結論にたどり着いたら、信頼性は増すでしょう。ここ10年で、再現実験(=過去の研究を別の研究者が吟味すること)の価値が見直されてきました。
また、論文の出版というのは査読時間なども含めてどうしても時間がかかるので、私は個人的には最終版でなくても、どんどん草稿の段階でもインターネット上で公開することにしています。内容が面白ければ、学術雑誌に掲載されなくても、ちゃんと読んでくれる人は読んでくれます。ポケモン研究の第一号論文などは、良い例でした。どこの学術雑誌に出版された、ということ関係なく草稿として有名になったのです。