物語を編むのには一定の時間が掛かり、そのあいだにはさまざまなことが起こります。また自分の心の中にもさまざまな気持ちが去来します。その中にはもちろん「楽しい」ときもあれば「苦しい」ときもあります。ですので、私の場合には「作っている最中は楽しい」や「作っている最中は苦しい」とまとめて表現することは難しいです。
言い換えると、「楽しい」や「苦しい」を気持ちの「向き」と表現するならば、作っている最中は気持ちがあちらこちらを向くといえますね。
作っている最中と、完成した後の気持ちを比べると、その違いは気持ちの「向き」というよりも「大きさ(強さ)」に現れるように思います。作っている最中の方が、その作品に対する気持ちは強く、大きいですね。作っている最中に比べると、作り終えた後の方は気持ちは弱まってきます。次の物語の方へ気持ちが移っていくからです。いま書いている本、いま編んでいる物語が自分にとっての最大の関心事です。
どういうときに「楽しい」と感じ、どういうときに「苦しい」と感じるかはまずまず明確です。自分がイメージしている「かくあるべき形」に向かっているときに「楽しい」と感じますが、そうではないときに「苦しい」と感じます。
特に苦しいのは、自分が心に描いているものが、うまく表現できないときですね。それはしばしば、自分が心に描いているものの方に疑念が向かうときでもあります。自分が考えている方向性はそもそもまちがっていたのではあるまいか、という感覚は苦しいです。
逆に、特に楽しく、大きな喜びになるのは、自分の想像を越えた発見があるときです。「なるほど!この物語はこれを伝えるものだったんだ!」という発見があるときは、最高の喜びの一つになります。書いてみないとわからなかったこと、書いてみて初めて発見できたことがあるとき、大きな喜びとなるのです。
物語を編み、作品を作ることにまつわる「楽しさ」と「苦しさ」について書いてみました。