小田部正明 (Masaaki Kotabe):私は日本人ですがアメリカの大学で35年程、国際経営学の教授(研究者)をしていました。また英文の国際経営学術誌の編集長も長く経験していたので、英語での論文の書き方と日本人の日本的な論文の書き方には大きな違いがあります。国際学会での発表(英語での)も基本的には論文を内容を簡潔に説明したものです。その観点から、貴方の質問に答えます。
国際学会での発表では、まず第1に何が(絞り込んだ1つの)課題(Y)で、研究する必要性があることかを最初に簡潔に納得できるように説明します(問題提起)。第2に、提案する概念的(理論的)なフレームワークを図を使って因果関係を目で追って理解できるようにします。つまり、Y
= f (X1, X2, X3…)で表現できます。
第3に、実証研究結果(結論)を表示します。そして第4に、その研究結果が何故そうなのかを一つ一つ説明していきます。最後に、全体のまとめを示します。ここで大切なのは、結論が最初で、その後にその理由を説明することです。英語の表現でいけば、It
is …(結論)… because …(説明)…、といった形です。文化人類学者Edward T.
Hallの言葉を借りれば、このような単刀直入な発表の仕方を好む文化(アメリカのような)をLow-Context文化といいます。
一般に日本人の日本の論文の書き方(そして学会での発表の仕方)は、(絞った)問題提起をせず、複数(多数)の課題(Y1, Y2,
Y3…)を説明し、概念的フレームワークはその複数のYの間にも複雑な関係があるばかりでなく、その複数のYを説明するのにX1, X2,
X3…と複数の説明変数をいれ、ミステリー小説を読んでいるように話が展開していきます。そのような発表を聞いていると因果関係が複雑すぎて何を説明(証明)したいのかわからなくなってしまうことが良くあります。そのような発表の全体としての含蓄は何となく分かるのですが、単刀直入な研究発表でないことが良く問題視されます。このような全体の複雑な関係から曖昧化もしれないが含蓄を見出すことを好む文化(日本のような)をHigh-Context文化と言います。
結論として、国際学会での発表は基本的にLow-Context型にした方が良いでしょう。