小川仁志:トランスジェンダーの場合、たしかにいくらホルモン注射を打っていても、生物学的な身体能力に差があるのは否めません。御指摘のように、スポーツにおいてそのせいで差が生じるのは、かえって不公平だともいえます。ましてや格闘技のような力がものをいう競技はそうでしょう。しかし他方で、トランスジェンダーの選手が排除されるのにも問題があります。それは本人の責めに帰すべき事由ではないからです。そこで考えられるのは、別階級を設けるという選択肢です。これは一見不公平なようですが、今でも格闘技では体重別に階級を設けるという措置が取られています。あまりにも体格差がある場合、格闘技では結果が不合理になるのに加えて、危険でもあるからです。本人同士の合意があっても競技を認めるべきでないのは、そうした理由からです。そして何より、体格は生まれ持ったものであって、本人にとってはどうすることもできない要素です。それと同様に考えることができると思うのです。この点を突き詰めると、本来はトランスジェンダーであるかどうかにかかわらず、生まれ持った体格や筋力ごとに階級を設け、あくまで技術を競うようにすればいいということになります。そのへんはテクノロジーの進化によってやがて解決されるかもしれません。ただ、現段階においては、過渡期として別階級を設けるのがどの立場にとっても公平といえるように思います。スポーツが身体能力を競うものであるがゆえに、すべて同じにするという形式的平等が、かえって不平等を生み出す点には注意が必要です。だからといって排除するのは思考停止であって、私たちには常に第三の道を追求し続ける義務があるといえます。それこそが多様性を求めるという営みにほかならないのです。